川岸殴魚 『編集長殺し』 (ガガガ文庫)

編集長殺し (ガガガ文庫)

編集長殺し (ガガガ文庫)

「来年はもう少し余裕ができるといいですね」

「できるわけないじゃない。ギギギ文庫って編集者の断末魔からつけられたレーベル名なんだから」

なんと絶望的なお言葉。

新人編集者,川田が中学館のライトノベルレーベル,ギギギ文庫の編集部に配属されて半年が経った.ツインテールの愛らしい外見とドSで真っ黒な性格を併せ持つ幼女の罵詈雑言にも負けず,日々仕事に励む川田であった.

村上春樹風のタイトルを掲げる川岸殴魚の新作は,架空のライトノベル編集部を舞台にしたコメディ.なぜか編集長はドSな幼女だし,編集者は「ほぼほぼ美少女しかいない」のだけど,まあ「そのことはラノベ読者にとっても半ば常識」なので,そういうものだと思って読むといい.

一応はライトノベル編集者あるあるとか,お仕事小説の一種ではある.しかし単にコメディと呼ぶにはディテールが意外と生々しい,ような気がする.特定のモデルがいるネタをぶっこんで,角が立たないようコメディに仕立て上げたような印象がある.悪く言っちゃえば楽屋ネタというか内輪受けというか.これまでのコメディと方向性がちょっと違っている気がするし,そのせいかこれまでの作品に比べるとはっちゃけが足りないところはあるかな,とも.テキストのキレは相変わらず鋭く,楽しく読ませていただきました.続き楽しみにしております.