新八角 『滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉』 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は  〈上〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

「そもそも分からないのは、お前は結局何者として愛されたいのかって話だ。人間のガファルとして愛されたいのか? それとも、《大獣》の《貪食の君》として愛されたいのか?」

花の街スラガヤ.《地胚》がもたらす奇蹟の下,貴族と奴隷,そして《大獣》が暮らすこの街は滅びが近づいていた.ある時,売れ残りの奴隷の少女と,人間に憧れる《大獣》が恋に落ちる.

デビュー作「血翼王亡命譚」(感想)に引き続きファンタジーとなる二作目.導入は初々しいすれ違いの初恋物語.今回はえらいかわいらしい話だな,と思って読んでいたら,やっぱりそれだけでは終わらなかった.

王道のファンタジーを,舞台の面白さと物語を埋め尽くさんばかりのガジェットの組み合わせで支えるという構図は同じと言っていいかな.三百年に渡る街の興りと発展,それを支える奇蹟と身分制度というシステム,すべてを食い尽くさんと現れる天災である《天子》のサイクルは想像の余地も大きくて楽しい.それと,三百年を生きてすべてを諦めてしまった支配者と,それを良しとせず抗う少女の対比.下巻は4月発売とのことで,楽しみにお待ちしております.