八目迷 『ミモザの告白2』 (ガガガ文庫)

「どうしてロミオとジュリエットは、二人とも死んじゃったんだと思う?」

衝撃的な事件の続いた一学期が終わり、夏休みが始まった。いつもと同じような、それでいて大きく変わったことに目を逸らしながら、続く三人の関係。そして二学期。成り行きで文化祭実行委員になってしまい、突然忙しくなる咲馬と夏希。咲馬たちのクラスは「ロミオとジュリエット」の劇をやることになる。

頭が痛い。自身の善性を根元から揺るがすような気づきが、今も、頭蓋骨の内側で大きな音を立てながら反響している。

俺は、一体なんなんだ。

いろいろなことから目を逸らし、問題を先送りにしながら時間だけが進む。危うい三角関係を描く青春小説の第二巻。幼馴染のためにやった行動は、本当に相手を思いやってのことなのか? 言葉にしなければ何もわかりあえない、本当は口にすべきではないことが多々あるのではないか? 誰かの「普通」は、他の誰かの「普通」とは違うのではないか? ありふれたようで、一歩間違えたら壊れそうな危うさを、繊細な手つきで見事に綴った。物語のあまりの危うさに、ウザキャラもといトリックスターかと思っていた世良がいてくれてよかったとさえ思えてくる。本当に良い青春小説だと思います。

「一人よりも二人死んだほうが、物語として面白いからだよ」



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雨井呼音 『お姉ちゃんといっしょに異世界を支配して幸せな家庭を築きましょ?』 (MF文庫J)

「良い子は天国に行ける、でも悪い子はどこにでも行ける」

そこに誰かの思惑など挟む余地もないくらいの速度で。

「……天使でたまるか」

私は、一歩を踏み出した。

「あなたのお姉様と結婚して、あなたのお姉様が支配する異世界へと行き、あなたのお姉様と一生一緒にいてください」。高校生、笈川野分の前に突然現れた、異世界からの使者を自称する少女。その言葉は、四年前に行方不明になった姉、笈川葉桜からのプロポーズだった。

実の弟と結婚するため、異世界を支配した姉はこの世界を侵略する。第17回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞受賞作。お互いのことしか眼中にない姉弟は、ふたつの世界に分かたれた。ヤンデレの姉の話かと思ったら、弟もヤンデレだったでござる。さて、本当にそうかな? 少年少女たちは誰も本当のことを言わないまま、物語はくるくる流転する。

正直なところかなり読みにくいのだけど、こういう面倒くさい話は嫌いでない。都市伝説や学校の七不思議を利用して侵略してくる異世界、というのも珍しくはなくなったけど、なんだかんだいろいろなアプローチがあるものだ。あとがきで語る、作中もうひとつの「異世界転生並みのファンタジー」という言葉に作者の誠実さを感じた。良かった。続きを楽しみにしております。

宮澤伊織 『裏世界ピクニック7 月の葬送』 (ハヤカワ文庫JA)

「空魚ちゃんの口の悪さは下品とかそういうんじゃないんだよ。ブラックジョークを口走って周りにドン引かれてるのに気付かずへらへらしてる、よくあるオタクの話し方ってだけ。ほら、ネットスラングとか面白いと思って実生活で真似しちゃう奴いるだろ。あれだあれ」

もはやヒトではなく、裏世界から現実に、予測不能の干渉をする存在となった閏間冴月。このままでは安息はない。空魚は閏間冴月を「殺す」ことを決意する。

因縁の相手の「葬送」を、一冊をかけて描いた第七巻。「葬儀」というものを、社会における「儀式」の意義や、人間関係から生まれる「空気」から定義して、実行する。言葉に並べるとかんたんだけど、ロジカルで非常にわかりやすく、それだけでエンターテインメントになっているのはさすが。実話怪談を利用して現実に干渉してくる敵を、実話怪談でハックするという、ある意味定番のシチュエーションもむちゃくちゃ怖くて楽しい。様々な人間関係を経験した空魚が、だんだんと社会性を身に着けていることもまた楽しい。積み重ねたものの重さが感じられる、良い決着の物語だったと思います。

坂 『ある魔女が死ぬまで -終わりの言葉と始まりの涙-』 (電撃の新文芸)

すべての始まりは、たった一言の『死の宣告』だった。

「お前、死ぬよ」

開口一番、お師匠様はそう言った。

魔女見習いのメグ・ラズベリーは、十七歳の誕生日を迎えたその日に、余命一年の呪いがかかっていることを知る。呪いを解く方法は、人々の嬉し涙を千粒集めて「命の種」を生み出すこと。「永年の魔女」の二つ名を持つ師匠ファウストに告げられた条件を達成するため、メグはたくさんのひとに関わることになる。

電撃の新文芸2周年記念コンテスト・熱い師弟関係部門大賞受賞。現代の、どこともしれない街に暮らす、ふたりの魔女。予定された逃れられない死を知り、「魔女の弟子」でしかなかった少女が、様々な出会いの末にひとりの魔女になるまでを描いてゆく。優しい現代ファンタジー、なんだけど、主人公メグのセリフになんJ語が挟まるのがかなり気になる。そこ以外は癖のない文体なので、メグの育ちとか身近さの表現だと思うんだけど、悪い意味で現実に引き戻される。カクヨムで読むなら丁度いい塩梅だったと思うんだけど……。

瘤久保慎司 『錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫』 (電撃文庫)

「『愛なきことがあたしの才』。でも……」

わずかに。

マリーの声が震え、温度を持つ。

「おまえを産んではじめて、あたしは自分の才を呪った」

妊娠したパウーのため、神のキノコである「霊雹」を探すビスコとミロ。その前に巨大な浮遊物体が現れた。周囲の生物を次々と取り込む巨大浮遊物体には、地球生命の保護を公約に掲げる箱舟大統領・メアが待ち受けていた。圧倒的な力を前にして、ミロが土壇場で産気づく。

ついに産まれるビスコとパウーの子供、かと思ったら先にミロがビスコの娘を産んだでござるの巻。母と息子と孫、三世代が集結し、ここまでの七巻に登場したすべての(存命の)キャラクターが登場。総決算と呼ぶにも恐ろしくカロリーの高い第八巻。なんというか、ものすごい贅沢なものを読まされてしまったというか。「愛」と「信仰」がビスコを生かし、物語の軸になり、次世代へと受け継がれる。感慨深いものがあった。それはまあそれとして、最後の最後で「は?」ってなった。ここまでやって、どういう風に話を広げていくの? とても楽しみです。