「結局の。世界はな、一言でいえば記憶だよ。記憶そのものだよ。そういう意味じゃあ、世界なんてのは本当はないのかもしれん。記憶が作り出した夢のようなものだ」
どこから出るのかと思える張りのある大きな声で老人は言った。
少女が茶をくいっと飲み干してから答えた。
「けど、私たちの記憶は本物だよ。だから夢じゃなくて現実」
西暦2115年。人類はAIによる徹底的な管理で平和と安寧を手に入れていた。AIが下した裁判結果を再チェックする仕事に就いていたミカサは、ある事件に違和感を覚える。今の時代、めったに起こらない殺人事件。記録によると、犯行時刻、ミカサは現場に居合わせたはずだが、当のミカサにはその記憶がなかった。
AIの反乱から始まるユートピア/ディストピアSF。殺人事件と記憶をめぐる謎と世界の改ざんが描かれる序盤は非常に引き締まったSFサスペンス。中盤あたりからテーマの発散と冗長なシーンが目立つようになる。記憶を中心とした夢と現実、そして世界の関係は面白いと思うのだけど、ページ数のわりに冗長な印象が残った。アニメか漫画の原作を小説化したような印象もある。総じて、傑作になり損ねた感が強い。惜しいなあ。




