紙城境介 『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』 (星海社FICTIONS)

推理小説はそんなに読むほうじゃないが、もし解決篇のできない名探偵なんでものがいたら、とんだ欠陥品だろ思うことだろう――

「――え。まさか……?」

「そのまさか、というヤツだ。……凛音本人も、自分がどうやって真実を導き出したのか、わからないんだよ」

カウンセリングルームに引きこもる少女、明神凛音は真実しか語らない。どんな事件であろうと神の啓示のように解き明かしてしまう彼女はしかし、無意識下で推理を行ってしまうため、彼女自身にすらその論理がわからないのだという。クラスメイトの伊呂波は、凛音を教室に連れていくため、「彼女の推理」そのものを推理する。

無意識下で一瞬にしてすべてを言い当てる彼女の推理を、弁護士志望の少年が論理立てて推理する。『継母の連れ子が元カノだった』の作者が送る、デビュー作以来? の本格ミステリにして、本格ラブコメ。いわゆる日常の謎に、推理の推理という謎を重ねた上で、さらにラブコメに仕立て上げた、高いレベルのエンターテイメント。キャラクターもそれぞれ際立った個性を持っており、学生生活の描写なども含めてとても細やかな視点で描いているのが見て取れる。特に弁護士志望の高校生である主人公が良い意味で真っ直ぐで熱くていいヤツ。読後感のとても良い、素敵なエンターテイメント小説でした。

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.9』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.9 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.9 (ガガガ文庫)

「私は、私のために大切な自分を変えようとしてくれた、その事実だけで、十分なんです」

季節は冬。友崎は菊池さんとすれ違い状態になってしまう。長く身に染み付いてきた個人主義で「恋愛に向いていない」と指摘された友崎は、菊池さんの、日南葵の、そして自身のそれまで気づけなかった面に向き合うことになる。

物語を構成していた大前提が一周回って、すべてひっくり返る。シリーズ第九巻。個人と個人が繋がる理由が形を変えて矛盾になり、業になる。最高に良かった。中高生のときに読んでいたら変なこじらせを抱えることになったかもしれない。

それぞれの考え方が物語に仮託して語られる中、日南葵の異質さがますます目立つことになる。キャラクターのモチベーションや悩みを積極的に言語化することがテーマにある物語にあって、ひとりだけ何を考え求めているか明らかにされないこともあるのだろうか。

大澤めぐみ 『Y田A子に世界は難しい』 (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

「私はロボットなので健康被害の心配がありませんから、放射能汚染区域や感染症リスクの高い場所など、人間には活動が難しい現場での仕事に適性が期待できます」

「いやでも戸籍上はただの十六歳の女子高生だから、普通の女子高生でもできるバイト以外に就くのは無理なんじゃないかな」

え? マジで? ロボットの利点ゼロ? さすがにアイデンティティクライシスだ。

ふたりの天才博士によって開発されたAI内蔵人型ロボット、瑛子は和井田家に居候していた。理由あって女子高生の姿をしている瑛子は、家族の勧めで高校に通うことになり、友達のいなそうな少女、風香と友達になることにする。

友達を作ったり、バイトをしたり、部活動をしたり、大家族の騒動に巻き込まれたり。Twitterと2ちゃんねるで情操を育んだ女子高生型ロボット、世界に足を踏み出す。第一印象は令和の『サザエさん』とでも言うのかな。作者独特の文体で語られるロボットの成長、人間の友情、家族愛、『ボボボーボ・ボーボボ』へのリスペクトにどんどん引き込まれていった。ここにはすべてが詰まっているし、人情と未来への希望に溢れている。人間よりも圧倒的に寿命の短いロボットに語り手を置きながら、いい意味で予想を裏切るラストもとても良かった。令和最新の人間讃歌であると思います。

赤城大空 『僕を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場2』 (ガガガ文庫)

「冒険者の仕事は基本的にモンスター退治だけれど……冒険者をやっていくうえで厄介なのは、モンスターよりむしろ人族だって感じることのほうが、私は多いかな」

レベル0の無職のままリスク4のモンスターを倒したことで、クロスは一気に注目の的になる。孤児院のボスとも和解し、新しい日常を送り始めたクロス。しかし、勇者や貴族、都市の持つ様々な思惑が、その周囲に忍び寄ってることには気づいていなかった。

世界最強の師匠三人に育て上げられる弟子。しかし、この世界は強いだけで生きていけるようにはできていなかった。異世界おねショタファンタジー第二巻。本当に怖いのはモンスターではなく人間なのだ、というよくある展開への、理由付けと話運びは悪くないと思う。いかにもゲーム的な説明は仕方ないかもしれないけど、細かい理屈を語りすぎず投げすぎず、良いバランス。非常にオーソドックスな話なので驚きはなく、引きは弱いかもしれない。引き続き読んでいくつもりですが、どういうものになるか。

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった6 あのとき言えなかった六つのこと』 (スニーカー文庫)

「どうしたんですか、結女さん? はふはふ」

「東頭さん……人ってどうやったらそんな恥知らずになれるの?」

「あれ? もしかしてわたし、痛烈な批判を受けてませんか?」

正直ラブラブしてるよりギスギスしてるカップルのほうが好きなので、水斗と結女も嫌味を言い合っている状態に戻せねえかなと隙あらば思っている。(作者プロフィールより)

季節は初秋。水斗と結女は、揃って文化祭実行委員に選ばれる。クラス企画の準備のため、一緒に活動する時間が増えるなか、元カップル、現きょうだいのふたりはそれぞれの思惑を抱えて行動する。

中学最後の文化祭で決別が決定的になった元恋人同士が、高校最初の文化祭で一緒になって考えたこと。語り手を入れ替えながら語られてゆく群像劇スタイルはいつもどおりではあるのだけど、文化祭準備から本番まで、後半へ向けてどんどんスピードアップしてゆく。異なる種類の人間だったふたり、互いへの好意と嫌悪、自己嫌悪が入り交じる感情。語られる気持ちはやたらとしゃっちょこばっており実に面倒くさい。袖の作者コメントといい、強いヒロインにはもっと強いヒロインをぶつければいいみたいな姿勢といい、本当に信頼できる作者だと思う。良いシリーズだと思います。