酒井田寛太郎 『ジャナ研の憂鬱な事件簿5』 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (5) (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (5) (ガガガ文庫)

人間の心は、キマイラだ。矛盾する二つの感情が、背中合わせで同居している。

海新高校ジャーナリズム研究会,略してジャナ研の,冬から卒業までの事件を描いた学園ミステリ完結巻.1952年のソヴィエト,北部第二強制収容所で起きた聖夜の出来事を,クライマックスの書かれなかった小説から読み解いていく「ロシアン・ウイスキー・ホーリーナイト」.結婚を決めた若いふたり,しかし女性が予兆もなく失踪した,その原因を探る「消えた恋人」.追い出し祭の事件と,卒業しても続く縁を匂わせる「ジャナ研の憂鬱な事件簿」.最終巻だからといって変わったことをせず,当たり前のように卒業が訪れ,余韻を残しつつ閉じていく.静かで落ち着いた,とても「らしい」ラストだったと思います.

二階堂紘嗣 『妄想少女の観測する世壊』 (MF文庫J)

妄想少女の観測する世壊【電子特典付き】 (MF文庫J)

妄想少女の観測する世壊【電子特典付き】 (MF文庫J)

「……ボクはただの妄想だけど、一度くらい生きてみたかったんだ」

被害者から左右どちらかの目玉を奪うという,連続通り魔事件が発生していた.買い物の帰り道,両目に眼帯をつけた通り魔に襲われた高校生の一騎は,猫耳メイド衣装の少女に助けられる.

妄想が形を持つ病,神因性妄想具現化症をめぐる異能バトル.妄想の強化のために非現実的なコスプレをしている,という設定は良い.ただ,そこ以外はどこかで見たような設定をつなぎ合わせたような安直さが目立った.意外性がなさすぎてかえって意外な黒幕の存在は一周まわって面白い,と言えなくもないけどねぇ.

鳩見すた 『アリクイのいんぼう 家守とミルクセーキと三文じゃない判』 (メディアワークス文庫)

なんの気なしにカレンダーに丸をつけたら、ウサ耳の女の子にそそのかされ、アリクイが焼いたパンケーキを食べ、猪突猛進な隣人とカニをつつき、ワンピースで犬とたわむれて、ハトとカピバラの決闘を目撃した。

まるで自分が不思議の国の住人になった気分だけれど、それぞれの冒険をつないでいるのは、ハンコとあんことわんこという、現実の存在なわけで。

ここは,印章店と喫茶店が合わさったお店,有久井印房.店長が白いアリクイにしか見えないこのお店で,夢を見つけられなくなった三十路のOL,妻を失った70手前の老人,夢を諦めようとしている音大生,ある事情を抱えた姉弟が,不思議な縁を紡いでゆく.

溝の口のような場所にある,アリクイが経営するハンコ屋(印房)を舞台にしたオムニバス小説.地味なお仕事小説かと思いきや,一話ごと,語り手ごとにびっくりするくらい変わる文体と,それぞれに仕掛けられたちょっとしたトリックにすっかり引き込まれてしまった.ガチガチのミステリは書かない作者だけど,語りの手法はミステリのそれだよな.

ハンコにまつわるうんちくや,ハンコに込められた社会的な意義や歴史も丁寧に語られる.昨今いろいろと言われることも多いハンコだけど,いろんな意味があるんだな,と興味深く読んだ.二巻三巻まで即ポチったので,ゆっくり読んでいこうと思います.

高橋祐一 『復讐の聖女』 (スニーカー文庫)

復讐の聖女 (角川スニーカー文庫)

復讐の聖女 (角川スニーカー文庫)

「お前がわたしの裁判の一部始終を見届けたように、今度はお前にはわたしの復讐(ヴィンディクタ)と、『裏切り者』を探す旅のすべてを見届けてもらおう。それがお前の贖罪だ。すべてが終わったとき、わたしはお前を赦すだろう」

1434年.ギョーム・マンションは,3年前に死んだはずのジャンヌ・ダルクに首をはねられた.ルーアン異端裁判所筆頭書記官として,乙女ジャンヌ(ジャンヌ・ラ・ピュセル)裁判の一部始終を記録していたギョームは,ジャンヌの復讐(ヴィンディクタ)と,裏切り者探しの旅に付き合わされることになる.

ルーアン,シノン,ポワティエ,オルレアン.蘇った聖女の復讐の旅,というには,不死身の聖女ジャンヌがポンコツすぎる.復讐相手を見つけると制止も聞かず「殺す今すぐ殺す」と突っ込んでいくわ,けっこうな食いしん坊だわ,祭の演劇で本人役を演じることになるわという.書記官とポンコツ聖女の復讐道中という方がより近い.シリアスな場面ももちろん多いとはいえ,印象としては語られるテーマと実際にやっていることの間のズレがかなり大きい.意図的なものかよくわからないのだけど不思議な読み心地になる.

新八角 『ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?』 (電撃文庫)

ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか? (電撃文庫)

ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか? (電撃文庫)

「はい、ケシの種たっぷりの合法サンドイッチ二種です」

時は24世紀.荒廃した東京――第三実験都市スコピュルスの片隅に,その食堂《伽藍堂》はあった.厨房には天使のような少女,給仕は悪魔のような黒髪の仕事人.これは,闘争と狂乱の時代に花咲いた,奇蹟の食堂とうまい飯の物語である.

ポストアポカリプスなTOKYOの,荒川区あたりを舞台にしたSF的飯小説.多能性無核細胞(Pluripotent Anucleate Cells,通称PAC)によって引き起こされたパンデミックと世界大戦,そしてPACを取り込んだ生物進化に伴い世界は大きく変貌した.デビュー作から書き続けてきた独特のファンタジー世界もとても良かったけど,SFを描いてもうまいんだなあ.じわじわと明らかにされる世界の作り込みや,その見せ方も肩が凝らず面白い.

完全栄養食オイル・バー素揚げの蜜掛け(「二つで十分ですよ!」らしい)に,クモ型自律戦車の人工筋肉の刺身(装甲で守られているから寄生虫や雑菌も入り込まなくて安全,ただし加熱する場合は悪臭のもとになる樹脂製の関節は外す)! と,テーマである「飯」も洒落とくすぐりにあふれている.続刊も楽しみにしております.



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