月見秋水 『世界一可愛い娘が会いに来ましたよ! 2』 (MF文庫J)

「分かりました! では『ママ会戦』に勝つために『NTR(難易度の高い恋愛)作戦』、始めましょう!」

NTR作戦、始まります!

「やっぱり燈華のネーミングセンスは……最高だな!」

高校二年生の久遠郁にとうとう彼女ができた。いい雰囲気になりファーストキスの空気……。そこに、未来に帰ったはずの未来の娘、燈華が乱入してきた。感動の再会と同時に、郁は記憶が改変されていたことを知る。

気づいたら知らない娘と恋人になっていたうえ、帰ったと思った娘がすぐに帰ってきたでござるの巻。未来からやってきた娘と、協力してのママ探し、第二巻。荒いところも多いのだけど、キャラクターの個性の強さとテキストの勢いで最後まで押し流している。細かいことは気にすんなという姿勢は一巻も同様だけど、それを徹底して、なおかつ成功しているのは珍しい。作者の一貫性というかある種の強さを感じる。タイムスリップや記憶操作といった仕掛けを使いつつ、SF的な原理が曖昧なのは気にするひとは気にするかもしれない。良いラブコメでした。



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高島雄哉 『不可視都市』 (星海社FICTIONS)

不可視都市 (星海社FICTIONS)

不可視都市 (星海社FICTIONS)

  • 作者:高島 雄哉
  • 発売日: 2020/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

理論とは、世界を見るための視座に他ならない。

彼は思ったのだった。

世界を変容させる戦争と、世界を見るための理論を、同一視できるのではないかと。

もし戦争と理論を溶け合わせることができれば、世界そのものを書き換えることだってできるのではないかと。

西暦2109年。12の〈超重層化都市(ギガロポリス)〉に人口の大半が生活するようになっていた世界は、その1年前に突如として現れた13番目の見えない超重層化都市、不可視都市によって分断されていた。数学者の青花は、月面にいる恋人の紅介に会うため、量子犬を伴い北京の超重層化都市を脱出する。

理論と世界を同一化する〈不可視理論〉とは。〈不可視都市〉によって物理的にも情報的にも分断化された世界を、2109年、1944年、2084年の三つの視点を入れ替えながら描いてゆく「超遠距離恋愛SF」。圏論、公理、AI。数学をベースにしたSF用語や理論に、適度な法螺と嘘を組み合わせて大風呂敷を作った、みたいな印象を受けた。というか、正直なところ作者のイメージをちゃんと共有できた気がしていない。細かいことまで理解せずとも読めるし、理解する必要はないんだろうけど、簡単な解説がほしいな。

柞刈湯葉 『人間たちの話』 (ハヤカワ文庫JA)

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

だってそうじゃないか。

生物は本能的に死を恐れるものである。とか、

親から与えられた生命はかけがえのないものである。とか、

そういう話を聞くたびに、僕は自分の命が遺伝子によって書き込まれた呪詛のように思えてならなかった。原初の地球の海でなんらかの偶然で生まれた最初の生命が、「生存したい」という欲求をどんどん肥大化させて、そのための分子機構をどんどん複雑化させ、人間のような巨大な塊を創り上げてしまった。もはや何かしらの罰としか思えない。

でも僕たちにはちゃんと救いが用意されている。機能としての死が備わっているのだ。これが救いでなくて何だというのだろう?

記念日

理解も被理解もできない「他者」を探し続けた男の孤独を描いてゆく書き下ろし表題作「人間たちの話」がこの本のベスト。「ファースト・コンタクトは探査機による発見ではなく会議による認定だろう、という個人的確信」(あとがき)がこういう話になるのはどういう頭をしているのか(前提からしておかしいが)。ストレートに「人間」を書いた、SFに普遍的な小説だったと思う。

「つらい監視社会」の時代は幕を閉じ、「たのしい監視社会」の時代がやってきた。タイトル通り、超監視社会を楽しく生きる若者たちの日常を描いた「たのしい超監視社会」もよかった。こういう価値観のねじれを書いた話が好きということもあるけど、この作者が書いてこそのテーマだと思った。

『横浜駅SF』の柞刈湯葉による初の短篇集。表題作に合わせたわけではないんだろうけど、作者独特の人間観と、独特の力の抜けたユーモアが合わさり、独特の余韻を残す不思議な作品集になっていると感じた。ドライな部分とウェットな部分が同じ面に交錯していて、読んでいて変なところで心を震わされるというか。あとがきと自著解説がついていたのはそういう意味で理解の助けになってよかった。読むなら最後まで必読。とても読みやすいし誰にもすすめやすいんだけど、とても複雑な短篇集でもありました。



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紙城境介 『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』 (MF文庫J)

俺は、捕まったのだ。あの五年間で、完全に、この悪魔に。血の匂いのする闇の中で、何度も何度も刻みつけられた傷が、魂を、心を、底の底まで冒し尽くしていて……。

逃げられないんだ。

転生ごときじゃ、逃げられないんだ。

高校を卒業してから5年。妹に監禁されていた俺は、やっとの思いで逃走を果たした矢先、トラックに轢かれて異世界へと転生した。新しい世界で貴族の子に転生した俺は、幸せに満ちた新しい人生を歩みはじめる。同じようにどこかに転生した妹に出会わぬよう、周りのひとたちの幸せを守れるよう。

俺を監禁し、両親を殺し、周囲の人間まで殺した。悪魔のような妹が、この異世界のどこかにいる。小説家になろうで展開された異世界転生小説の書籍化。作者の著作がここ数年ラブコメばかりだったので、今回もラブコメかな、と思って手に取ったら完全に裏切られたでござる。ストロングスタイルのヤンデレ妹を久しぶりに見た気がする。コルク抜き……。

記憶をそのまま持った新生児として生まれ、「転生」によって誰かの居場所を奪ってしまったのではないかとの罪悪感を抱きながら、様々なひとやエルフに出会い、七歳にして性の目覚めを自覚する。この作者らしいまっとうな成長やふんわりした幸せと、悪魔()と暴力の影がぷんぷん漂い、何かが起こるんじゃないか、あっさり破滅するんじゃないかとの紙一重を、ビクビクしながら読みすすめることになる。角川ホラー文庫みがあって楽しい。それにしても最近のMF文庫Jはいろんな方向性があって良い。大いに続きを期待しております。



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牧野圭祐 『銀河鉄道の夜を越えて ~月とライカと吸血姫 星町編~』 (ガガガ文庫)

思えば、「生きたい」と強く願ったのは、破滅の危機が叫ばれていた頃だけだ。危機が薄れていくほど、生への切実な想いも風化していった。

時は1964年,場所は極東の島国にある星町.高校二年生のミサは,星祭りの夜に美しい少女に出会う.彼女はこの町に転校して以来,一度も登校していない同級生のアリアだった.

声劇脚本をもとにした「月とライカと吸血姫」のスピンオフとなる,二人の少女の出会いと別れの物語.「声劇」という文化を知らなかったのだけど,ライブの幕間の朗読劇みたいなものかな.今から半世紀以上も前,人類が月に降り立つ前.宇宙に憧れる孤独な少女と吸血鬼の少女は銀河鉄道に乗って太陽系へ旅立つ.ジュヴナイルらしい雰囲気に満ちた,落ち着いた中編だったと思います.