今慈ムジナ 『路地裏に怪物はもういない』 (ガガガ文庫)

路地裏に怪物はもういない (ガガガ文庫 い 9-4)

路地裏に怪物はもういない (ガガガ文庫 い 9-4)

少年は、世界に残された最後の幻想だった。

夏至の日、少年は十五歳の人の形で自然発生的に生まれた。

社会常識や一般教養はあるが、過去の記憶や記録がない。同種の仲間もなく、怪物らしい無双の力もなく、ついでに名前もない。

何者にもなれなかった怪異だと、すぐに少年は理解する。この世に自分以外の怪異がいないことが、少年の存在に刻まれていた。

そして「この平成の夏が終われば自分は消滅する」と識っていた。

十五歳の少年の姿をした《最後の幻想》は,《空想を終わらせる男》左右流,《絶えた怪異を殺す少女》神座椿姫と出会い名前を授かる.世界最後の怪異,夏野幽の,平成最後の夏の物語.

幻想や怪異が死に絶えた世界で生まれた,最後の怪異が遺したもの.帯に曰く,「平成最後を締めくくる新伝奇」であり「ゼロ年代を愛したすべての読者へ、この作品を捧ぐ。」.章ごとに吸血鬼,人魚,化け猫を描いており,全体で見ると,平成に生まれた伝奇へのリスペクトをひしひしと感じる.というか『月姫』の影響を受けた平成最後の作品になるんじゃないかね.絶えた怪異と人間から生まれた「乖異」,空想と現実の距離の考え方とその語り方がとても興味深い.ひとにはすすめにくい作品ではあるのだけど,個人的にはとても好きなタイプの小説でした.

ますもとたくや 『きゃくほんかのセリフ!』 (ガガガ文庫)

きゃくほんかのセリフ! (ガガガ文庫)

きゃくほんかのセリフ! (ガガガ文庫)

「……私、今まで、思いもしなかった。普通にテレビでアニメ見ててさ、作ってる人達が、こんなに大変だったなんて」

俺はあわててスプーンを置いて佐江に言う。

「そんなん、思う必要ないよ」

「え?」

「俺も含めてアニメ作ってる人間が、見た人に思ってほしいことはただ一つ。『面白かった』。そんだけ。どんなに苦労しても、たったその一言で、本当に報われる」

デビュー以来鳴かず飛ばずの脚本家,竹田雲太にある日持ち込まれたワケありの仕事.それは,ある事情からTVシリーズが炎上したアニメの劇場版の脚本だった.

竹田を嫌うプロデューサー,職人気質の監督,原作原理主義の編集者から次々と繰り出される無茶振りで,炎上中のプロジェクトはますます燃え上がる.『けものフレンズ2』のシリーズ構成・脚本家の手で書かれる,アニメ脚本家の苦悩の物語.

無茶振りという名のルールに,いかに抵触せず脚本を成立させるか.ミステリアニメの脚本を作る小説ではあるのだけど,自動的にメタミステリ的な構造を持つようになるのね.自明なのかもしれないけど,不思議で新鮮だった.現実の炎上と比較すると「ファン」の存在がかなり弱く,逆に「デウス・エクス・マキナ」がかなり強く見えるのは,いろいろ考えてしまうね.事実は小説よりよく燃える.よい小説だと思います.

只野新人 『Vermillion 朱き強弓のエトランジェ2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

Vermillion 朱き強弓のエトランジェ 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

Vermillion 朱き強弓のエトランジェ 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

「今は、不景気なのか」

「不景気というより、平和なんだよ。単純に武具を買う必要がねえ。戦役が終わってからしばらくは、ボロ装備の更新のためにまだ売れていたんだが、今は、なぁ……。使わないから壊れない、壊れないから替えが要らない、替えが要らないから新しいものは買わない。……ま、当然の流れだわな」

VRMMORPGにそっくりの世界に転移してしまったケイとアイリーン.城郭都市サティナにたどり着いたふたりは,矢じりを作る職人に世話になり,そこで平和がもたらした闇に直面することになる.

なろうコン大賞受賞作の二作目.ファンタジー風異世界の,ここぞというポイントをしっかり押さえた話つくりをしており,いかにもなゲーム世界の小説だった一巻と比較すると抜群に面白くなっていると思う.街の経済や治安しかり,街の内と外の関係しかり.クライマックスの,互いの手の内を探りつつ,忍術と魔術を駆使したタイマン勝負は確かな緊張感があった.

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.6.5』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6.5 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6.5 (ガガガ文庫)

こうして、ナチュラルめのメイクとかスタイルをよく見せる下着とか、女子高生にとって一番の武器である制服とか、そういうのをまるごと取っ払ったなにも着飾ってない素の自分と対峙するとき、ときどきこんなことを思う。

私ってたぶん、自分のことがあんまり好きじゃない。

これは病んでるとか自虐っていうよりも、漠然とそう思ってるってだけの感覚で。

登場人物の中学時代の話や,本編の幕間にあった出来事を描いた短編集.中学時代のパーフェクトヒロインが初めて男の子とおつきあいする「プレパーフェクトヒロインの憂鬱」,陸上部を引退したみみみの迷いを描く「振り切るためのスピードで」.六巻のラストと今月の七巻をつなぐ「そして、そのあとの話。」あたりが良かった.

作者の書く女の子の一人称の語りかなり好きだなあ.デビューから友崎くんしか書いていないから今まで気づきようがなかった.続きも楽しみだけど,女の子が主人公の長編もいつか読んでみたいなと思ったことでした.

さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目 (MF文庫J)

この世界は、悔しいことばかりだ。

デビュー作を打ち切られるのは悔しい。三シリーズ目でも同じぐらい悔しい。同期と比べられるのは悔しい。編集長に宥められるのはなおさら悔しい。担当に負けを認めるのはもっと悔しい。

読者に、自分の書いた本が届かないことは、なにより悔しい。

「わたし、作家デビューが決まりました」.星花がWeb小説の賞を受賞して,MF文庫Jからデビューすることになった.天神は自分が同業者であることを隠したまま,星花の受賞パーティに赴く.大賞を取ったのは,これまた女子中学生作家の八谷屋夜弥.夜弥は受賞の挨拶で「自分は神である」とのたまい舞台上で脱ぎはじめる.

天才と凡人,ふたりのJC作家の間に挟まれた塾講師兼業作家の天神は,作家としてひとつの転機を迎える.才能と引き換えに大人としての態度を手に入れた作家が,同じ凡人の仲間を手に入れてもう一度立ち上がろうとする.なけなしの才能が尽きかけた大人と,すべてが最高だと無邪気に言い切る中学生の対比が切なく,才能あふれる者と凡庸な者の対比がまた切ない.

「才能」というテーマがテーマだけに,これまでの作品に比べると考えられないくらいストレートに言葉が出ているように感じる.ここまでのシリーズの流れから見るとかなり唐突な展開,というか語りに余裕がないように見えるのだけど,これは意図してやっていることなのかな.