今慈ムジナ 『時をかけてきた娘、増えました。』 (ガガガ文庫)

「ねえ、いつからが恋なんだろうね?」

清水大地はクラスメイトの安達藍に密かに想いを寄せる高校二年生。ある日、大地の部屋に突如開いたワームホールから、安達七彩と名乗る少女が現れる。大地と藍の娘だという七彩は、将来ダメダメになる父親をしっかりさせるため、未来からやってきたという。

未来から自分とクラスメイトの娘がやってきた。それも複数、片想い中の演劇バカの美少女と、意識したこともないクラスメイトとの。ドラえもんのおいしいところをつまんで、現代風に発展させたようなラブコメディ。そういう意味で、単なるラブコメ以上にかなり都合のいい話ではある。それをわかった上で読んだのだけど、読後感はかなり良い。キャラクターに嫌味がなくしっかりしているのが良いのか、初対面の印象が少しずつ変わっていくようなお約束も普通に楽しい。クールな美少女だと思っていた片想いの相手が、実はかなりのポンコツさと、不器用な熱さを秘めていることが明らかになっていく過程がとても良い。『スナックバス江』のラブコメ談義回を思い出す、良いラブコメでした。

旭蓑雄 『ヒロインレースはもうやめませんか?② ~新ヒロイン排除同盟~』 (電撃文庫)

「ストップ、しおりちゃん! 固有名詞は口にしちゃダメ!」

茶菓上先輩は、よくわからないことを言いました。

「……どうしてです?」

「読者にキャラとして認識されちゃんでしょうが! 『あの女教師』なら、まだモブで済む!」

本当によくわからないことでした。

錬太郎のヒロインの座をめぐり、相変わらず牽制し合うむつき、しおり、萌絵。そんなある日、錬太郎がポツリと「子供の頃、結婚を誓いあった女の子がいた」と言ったことで電流が走る。これ以上ヒロイン候補を増やしたくない三人は、錬太郎の「運命の人」を排除するべく、行動に移すのだった。

最強の属性「運命の人」を持つ新ヒロイン登場、この危機に既存のヒロインたちはどう立ち向かうのか。ヒロインレースを否定するヒロインレースラブコメの第二巻。あくまでコメディとして描いているけど、というよりコメディとして描いているからこそ、今回のこれはやっちゃいかんことなのでは……。三人に加えてさらに三人増えるのか、と思いきやそういうわけでもなく、あくまで三人(とひとり)の話を進めていくのかな。

宮澤伊織 『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』 (ハヤカワ文庫JA)

「鳥子ってさあ、バカではないと思うけど……ときどき極端に知性が下がるときがある気がするんだよね」

「ええっ、いつ?」

「今だよ!!」

私、紙越空魚はどこにでもいる普通の大学生。ある日、大学へ急ぐ道のりで金髪の美人とヤクザみたいな男に拉致られて謎の施設に連れ去られてしまう。私、いったいどうなっちゃうの~!?

空魚や鳥子たちの前に「寺生まれのTさん」が実体を持って現れた。彼の行動はどうも空魚たちを裏世界から切り離そうとしているように思えるが、その真の目的は。空魚と鳥子のふたりは裏世界でDIY、空手後輩がレギュラーメンバー入り(?)を果たし、小桜さんがひたすらかわいそうな目に会うのを愛でる。コンセプトが「劇場版」ということで、珍しく一冊を一エピソードに費やしているシリーズ第六巻。キャラクターの掘り下げに力を入れつつ、裏世界の持つ新たな側面や可能性をほのめかす。さすがに綺麗にまとまっていて、尺関係なくすらすらと読める。毎度ながら楽しゅうございました。

三田麻央 『夢にみるのは、きみの夢』 (ガガガ文庫)

私は、いつのまにかナオに恋をしてしまっていた。

でも、ナオを想うこの気持ちの中には焦りと困惑がぎっしりと詰まっている。

……こういう気持ちって、もっと楽しい感情なんじゃないの?

ドキドキして。春みたいな風が吹いて。甘くて。……全然違うじゃないか。ココアみたいに甘いんじゃないの、本当は。

恋愛経験ゼロ、友達ゼロで二次元オタクの会社員、二橋美琴。誕生日の夜、公園でひとり酔っ払いながら泣いていた美琴の前に、ナオと名乗る青年が現れる。ナオは研究所から脱走してきた愛玩用AIだと言う。行き場のないナオと美琴はなし崩し的に同居生活を送ることになる。

冴えないOLの元に、AIを自称するイケメンが押し掛けてきて、なし崩しで同居生活が始まって。いわゆるオーソドックスな押しかけ女房ものというか、男女逆なら似たような話をたくさん読んできたが……、と思って油断していたら、仕掛けられていたSFトリックに完全に足元をすくわれた。少女漫画のお約束のような展開がかなり長く、正直退屈なところも多いんだけど、ある程度はわかってやっているんだろうな。きれいにタイトルの意味が回収されるラストは良かったと思います。

佐藤悪糖 『君が笑うまで死ぬのをやめない 雨城町デッドデッド』 (講談社タイガ)

私の手を握ったサンタクロースは、ニコリとも笑わなかった。彼女の手は震えていた。

「これから君は、自分の手で犠牲にするものを選ばなければならない。きっと途方もない地獄を見るだろう。望みを保ち続けるのは難しく、つかみ取るにはさらなる困難が待ち受ける。だとしても、私は、いつかの君に幸せになってほしい。それだけが私の願いだ」

大学進学を機に念願の一人暮らしを始めた灰原雅人。その引越し先のアパートには、黒い女の悪霊が住んでいた。出会い頭に刺し殺された雅人は、サンタクロースを名乗る赤い女に生き返らせられる。これが灰原と悪霊とサンタクロース、奇妙な三人での同居生活の始まりだった。

自分を殺した女を救うため、幸せを追い求めて俺は死に続けることを決めた。ルールは一つ、幸福には総量がある。黒い女とサンタクロースの尋常ではない関係、章ごとに何度も何度も繰り返される死とループ、その謎を追う灰原と仲間たち。タイトルから想像できるとおりのループもの、ではあるのだけど、タイムループものとしても青春ものとしても、予想していなかった方向から刺された。他人の、そして友人の幸福のために陽気に死に続ける主人公が、だんだんとかっこよく、尊いものに見えてくる。帯にある“時をかける馬鹿”という文句が言い得て妙。とても良かったです。