不破有紀 『はじめてのゾンビ生活』 (電撃文庫)

地球のみんなは言う。

ゾンビは醜い。ゾンビは汚い。ソンビは臭い。

だが、それでも――私はゾンビになりたかった。

その時の俺は知らなかった。地球政府が正式に樹立した後、新人類が旧人類に対して何をしでかしたのかを。虐殺、そして隔離。新人類党の無慈悲な所業を俺たち火星人が知るのは、もう少し後のことになる。

ゾンビへの偏見から、仕事に就くこともできなかった時代。圧倒的少数派のため差別を受けたり、人間には過酷な宇宙に送られ宇宙開発の尖兵とされていた時代。徐々に数が増え、「ゾンビ」から「新人類」へと呼び名が変わる時代。逆に多数派となり「旧人類」から権利を勝ち取った時代。旧人類と新人類が共に滅びつつある時代。

ゾンビの存在が公式に認められた西暦2150年から人類の滅亡まで。おおよそ千年に渡る人類史の転変を、時系列や場所をシャッフルしつつ描いてゆく。ゾンビ(新人類)と人類(旧人類)の関係と意識の変化、社会の変化に伴う科学技術の進化と社会そのものの衰退。WWZと『ぼくのゾンビ・ライフ』を足したうえで、現代の価値観を加えてSFとしてのアップデートを加えたような、ものすごく意欲的なゾンビ小説だと思う。電撃文庫のゾンビ小説では「地球最後のゾンビ」に並んで好きだな。広く読まれてほしい傑作SFでした。



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三船いずれ 『青を欺く2』 (MF文庫J)

「あの! 先輩は『きれいなバッドエンド』と、『ぐちゃぐちゃなハッピーエンド』、どっちがいいと思いますか……?」

『ペンと花火』が特別新人賞を受賞したことで、千太郎たちは和歌山の田舎町のPR映画を制作することになった。夏休み、海辺の町の撮影合宿。アクシデントや変わった出会いもありながら順調に進む撮影だったが、主役を演じる桜がラストシーンで失敗を犯してしまう。

桜はるかには、役者として致命的な欠点があった。泣けない役者にいかにして泣いてもらうか。映画作りと嘘でできた青春小説、第二巻。今回は役者にスポットライトを当てた巻になるかな。一巻と比べると焦点とテーマが非常にはっきりしたものになっていたと思う。役者をやるという『覚悟』。それは地獄に進んでいくようなもの。フレッシュさもあり、生々しくもキレがある。本当に良い青春小説だと思います。



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夜方宵 『探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。2』 (MF文庫J)

「だってこの横臥島は普通の島じゃないもの。本土から遠く離れた離島につけられた鬼ヶ島の異名、そして島に伝わるオウガ島という名の鬼にまつわる伝承。まるで江戸川乱歩や横溝正史を思わせるおどろおどろしさじゃないか。そこに私という本格的名探偵が――私たち『本格の研究』(スタディ・イン・パズラー)の六人が足を踏み入れたんだ。舞台に探偵と助手(役者たち)が揃った今、なにも起きない方が却って奇妙というものだよ」

ゴールデンウィーク。『本格の研究』(スタディ・イン・パズラー)の面々は、万桜花家の別荘がある小島、横臥島を訪れた。別名鬼ヶ島と呼ばれ、人喰い鬼オウガ様の伝承が残る横臥島。業落としと呼ばれる年に一度の祭りの夜、まるでオウガ様の像に撲殺されたかのような殺人事件が起こる。

島に伝わる人喰い鬼の伝説、鬼を鎮める祭りの最中にお約束のように起こった殺人事件、その後の後始末。そして目隠し幼女を中心に、わずかに明かされるこの世界の真理。本格的名探偵こと推川理耶の性格と、推理が現実になるという能力を逆手に取ったクライマックスは鮮やかで好き。ひとつめの事件がテンポよく解決したぶん、その後がだらだらと長く感じられるのは否定できないのだけど、ラストまで読んだら評価が良い方にひっくり返りました。

春海水亭 『致死率十割怪談』 (角川書店)

「この村な、今の時期は尺八様っちゅう、淫乱ド変態妖怪が出るから気ィつけぇよ」

俺は、祖父ちゃんの庭で最悪の話を聞かされた。

「淫乱ド変態妖怪の出現情報って、親父の実家で聞きたくなかった話のナンバーワンだぜ、祖父ちゃん」

「尺八吹くみてぇに、男根しゃぶりあげて死ぬまで生を啜り上げる妖怪じゃあ。ドスケベぇな顔をしとるからすんぎにわかる。大きさも運動能力も羆みてぇだが、人間は恐れねぇし、銃も効かねぇ」

「親父の実家で聞きたくなかった話のナンバーワン、いきなり更新されたぜ、祖父ちゃん。会ったら死ぬじゃん」

はてなインターネット文学賞カクヨム賞受賞作の「尺八様」、カクヨム「ご当地怪談」読者人気賞「キリコを持って墓参りに」、ほかを収録したホラー短編集。タイトルだけでわかるかもしれないけど、良い意味でも悪い意味でも作品の振り幅がくそでかい。その副作用というか、ちゃんと一話を読み切るまで油断できない作品集になっていて良かった。

一番怖いのは妖怪じゃなくて人間、のおそらく史上最低の変奏曲「尺八様」。最後まで読んで意味がわかると物悲しくなる「身長が八尺ぐらいある幽霊が俺にビンタしてきて辛い!」。どことなく筒井康隆っぽさを感じた「書籍化必勝法」が好み。冒頭の「八尺様がくねくねをヌンチャク代わりにして襲ってきたぞ!」のノリに騙されず、最後まで読んでみるといい。

柳之助 『バケモノのきみに告ぐ、』 (電撃文庫)

簡単なことですよ、同類(Elementary, Freaks)

戦場帰りの元軍医、ノーマン・ヘイミッシュは薄暗い部屋で拘束されていた。尋問を受ける彼がこれから語るのは、4人の少女とともにバケモノに立ち向かった記憶。

第30回電撃小説大賞銀賞受賞。舞台は高い城壁に囲われ、風の吹かない城塞都市バルディウム。密室殺人、切り裂き殺人、怪盗事件といった難事件に、元軍医と四人の《アンロウ》の少女が挑む。引用部とあらすじでおわかりの通り、ホームズパスティーシュのにおいがする異能ラブコメ。一事件ごとにバディの少女が変わり、探偵と助手の関係も不定なのが特徴かな。事件によって語り手のワトソンに徹することも、助手の少女を引き連れ探偵をやったりもする。

四つの事件を語り終え、その果てにつながった現在で何が起こるか。ホームズパスティーシュをやりたいのかと思わせて、実はラブコメをやりたかったのだという、あとがきの作者の思いは存分に伝わった。どっかしら興味が惹かれたところがあれば手にとって見ていいのではないでしょうか。