赤城大空 『【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう ~けど相手が若手最強の迷惑系配信者だったらしくアホ程バズって伝説になってますわ!? 4』 (ガガガ文庫)

「皆様、心配をおかけしてしまったようで申し訳ありませんですわ。ですがご安心を」

嵐を纏ったカリンは、そんな視聴者を安心させるようにはっきりと断言した。

「ここから先は一方的ですので」

再生数稼ぎの自作自演の疑惑を晴らすため、ダンジョン深層のソロ攻略を配信することにしたカリン。自宅から近くて野次馬が集まりにくいという理由で奥多摩渓谷ダンジョンに潜入する。数百万人が見守るなか、常識外れのダンジョン攻略が始まる。

ドレスを着てお紅茶片手にダンジョン深層をソロで踏破する。チンピラお嬢様のダンジョン攻略記第四巻。次から次へと現れる初見殺しを、数百万人のツッコミを受けながらバッタバッタとなぎ倒してゆく様子はシンプルに痛快。RTAのような、時代劇のクライマックスのような爽快感があった。前後編の前編にあたるのでお話的にはあまり動かなかったかな。続きを楽しみにしています。

伏見七尾 『獄門撫子此処ニ在リ4 狐の窓から君を見る』 (ガガガ文庫)

「頭蓋に浮かぶ肉が、よくないのです。脳髄とかいう灰色の塊が、癌なのです。ミてゐる様は目で仰いました。あれが霊長たる人類を地に縛り付けている重石なのだと。なので、取り払ってしまうのです。掻きだしてしまえば、私達はずうっと軽やかになるのです。万物の霊長が、ただ一つの肉に縛られてはいけません……視線を、遮ってはいけません……」

撫子とアマナのふたりがまどろみから目覚めると、はざまの駅にいた。そこで出会ったのは、問答無用で襲いかかってきた獄卒のカシャリと、案内屋を名乗るドラセナ・ジィ。なんとかはざまを逃れたふたりは、出発した京都ではなくなぜか軽井沢にいた。

新興宗教としょうけらが跋扈する京都を舞台に、もうひとつのヒトと狐の関係を描く。近づけば近づくほど狂ってゆく鬼と狐の関係に迫る第四巻。京都と新宗教ってとても相性が良いですね。文字通り地獄のような百合であり、少年漫画のような伝奇とアクションあり。コミカルな部分もありながら、最後まで気の抜けない小説でした。

持田冥介 『ノイズ・キャンセル』 (メディアワークス文庫)

水は、停滞すると腐ります。言葉も同じなのです。

人が使っている言葉なのだから、人に持ち帰ってもらおう。

彼ら彼女らはそう結論づけました。そして溜まった言葉を物体に変え、人を招待し、持ち帰ってもらうことで、この場所に流れを作り出すことにしました。

今現在、それは美術館であり、絵画なのです。

高校入学を目前に控えた春休み。鰐川草は、時間つぶしのためにたまたま見つけた「言葉の美術館」に立ち寄る。「ヘッドホンを外してはならない」、「一度出たら、もう二度と入ることはできない」。いくつもの奇妙なルールのある美術館で、草は不思議な出会いを経験する。

「他人は、あなたが思っているほどあなたのことを気にしていない。興味を持っていない。だから失敗を恐れるな。自意識過剰になるな。好きに生きろって、そういう言葉を聞くよな。でも、今の時代は違う。他人は、あなたが思っているほどあなたのことを気にしてない。だから、失敗したときには死ぬまで追い詰めてくる。興味がないから全力で叩いてくる」

子供の頃、父を事故でなくした少年が、奇妙な美術館で奇妙な出会いを経験する。デビュー作『僕たちにデスゲームが必要な理由』以来となる、四年ぶりの新刊。言葉とコミュニケーションをテーマに、それを選別する象徴としてのヘッドホンと「言葉の美術館」の出来事を描く。信じているわけではないのに、インターネットを介していつの間にか「言葉」が脳内を侵食する。様々なルールのもと、「言葉」が集まり、ひとつだけ展示品を持ち帰ってもいい奇妙な美術館。現代の言葉とコミュニケーションの面倒くささ、ままならなさを独特の筆致と舞台で描く。

脱出ゲームでもないしミステリやSFともちょっと違う。作中の美術館のような、まんま現代美術のような、不思議な読み心地の小説だった。とても良かったです。



kanadai.hatenablog.jp

野中春樹 『探偵気取りと不機嫌な青春』 (講談社ラノベ文庫)

別に俺が話すのは大した内容じゃない。物語の探偵のように、理路整然とした証明ができる訳じゃない。

――俺は、物語の探偵じゃない。

ただそういうのが好きで勝手に気取っていた自己中の探偵気取り。

そのことに気づいた今なら、大丈夫。

一年前、探偵気取りで身勝手な行動を取っていた高校生の朝河探は、逆恨みを食らって妹に大怪我をさせてしまう。それ以来、探は他人に関わることに抵抗感を抱いていた。ある日のこと、万引きの疑いをかけられようとしていた同級生、青山景の冤罪を晴らしたことから、ふたりの距離が近づく。

第18回講談社ラノベ文庫新人賞佳作。探偵気取りで誰かを傷つけてきた少年と、傷つけて傷つけられて、不機嫌な日々を過ごす少女の青春。出会ったことから、ふたりが抱えていた人間関係の誤解やすれ違いが修復されてゆく。派手なことは起こらないけど、登場人物それぞれに小さな救いと成長があることを静かに描いてゆく。そんな正統派の青春小説でした。

神宮寺文鷹 『孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い』 (電撃文庫)

「私は精神離脱者(アストラルダイバー)よ。だから物質界(マテリアルサイド)のあなたと影響し合うのは、お互いにとって良くないと思うのよ。精神界(アストラルサイド)で異変があれば、私は救世者(メシアン)として、そちらを優先しなければならない」

「私、世界を救わないといけないから」。高校生の楠木将臣は、そんな妄言をほざく同級生、貴家雲雀に罰ゲームで告白して、受け入れられてしまった。精神界(アストラルサイド)救世者(メシアン)を自称する電波な彼女に、将臣はすぐに本気で惚れてしまう。

第31回電撃小説大賞金賞。現実と、誰からも認めてもらえない電波的な妄想、ふたつの世界を持つ電波少女の普通と矛盾、そのままの形を誰かに認めてもらうこと。「普通」をキーワードに、ゼロ年代を彷彿とさせるやや回りくどい語りも合わせて、基本的には良いラブストーリーだと思う。不器用な人間関係の、独特の描き方には一読の価値がある。ただ、終盤で薬と治験の扱いが雑では? と思ってから、内容が頭に入ってこなくなってしまった。せめてそれらしく誤魔化してくれれば、最後までのめり込めた気がするんだけど。難しいな。