水は、停滞すると腐ります。言葉も同じなのです。
人が使っている言葉なのだから、人に持ち帰ってもらおう。
彼ら彼女らはそう結論づけました。そして溜まった言葉を物体に変え、人を招待し、持ち帰ってもらうことで、この場所に流れを作り出すことにしました。
今現在、それは美術館であり、絵画なのです。
高校入学を目前に控えた春休み。鰐川草は、時間つぶしのためにたまたま見つけた「言葉の美術館」に立ち寄る。「ヘッドホンを外してはならない」、「一度出たら、もう二度と入ることはできない」。いくつもの奇妙なルールのある美術館で、草は不思議な出会いを経験する。
「他人は、あなたが思っているほどあなたのことを気にしていない。興味を持っていない。だから失敗を恐れるな。自意識過剰になるな。好きに生きろって、そういう言葉を聞くよな。でも、今の時代は違う。他人は、あなたが思っているほどあなたのことを気にしてない。だから、失敗したときには死ぬまで追い詰めてくる。興味がないから全力で叩いてくる」
子供の頃、父を事故でなくした少年が、奇妙な美術館で奇妙な出会いを経験する。デビュー作『僕たちにデスゲームが必要な理由』以来となる、四年ぶりの新刊。言葉とコミュニケーションをテーマに、それを選別する象徴としてのヘッドホンと「言葉の美術館」の出来事を描く。信じているわけではないのに、インターネットを介していつの間にか「言葉」が脳内を侵食する。様々なルールのもと、「言葉」が集まり、ひとつだけ展示品を持ち帰ってもいい奇妙な美術館。現代の言葉とコミュニケーションの面倒くささ、ままならなさを独特の筆致と舞台で描く。
脱出ゲームでもないしミステリやSFともちょっと違う。作中の美術館のような、まんま現代美術のような、不思議な読み心地の小説だった。とても良かったです。
kanadai.hatenablog.jp