手代木正太郎 『鋼鉄城アイアン・キャッスル2』 (ガガガ文庫)

とうとうと、ただ、とうとうと流れる時代の奔流の中、舵を手に船出したばかりの松平竹千代は、果たして流れに翻弄される木の葉に過ぎぬのか? はたまた濁流に逆らい泳ぎ切り、やがて昇竜となって天へと達する大魚であろうか? サテサテ、それは読んでのお楽しみ。

今川義元を滅ぼし一年。三河の雄となった松平竹千代は、日に日に名声を高めていた。一乗谷城の朝倉義景を攻める安土城を追いかけ、織田信長と友誼を結んだ竹千代は、信長の指示により甲斐の武田信玄と戦うことになる。一方、竹千代の友だった佐吉は、羽柴秀吉のもとで安芸の毛利攻めに加わっていた。

サア、再び動き出したる物語。荒唐無稽奇想天外波乱万丈痛快無比スリル満点血湧き肉躍る戦国鐵城(キャッスル)合戦絵巻(ラノベ)『鋼鉄城アイアン・キャッスル』第二の巻! ここにッ――。

――はじまりィ~はじまァ~りィ~ッ!

太田垣康男デザインの巨大ロボットが戦う戦国時代に降り立ち、一乗谷に鳴り響く浜松城のテーマソングから始まる戦国軍記物語の第二巻。竹田城から降り注ぐ太田垣輝延のサンダーボルトだの、「金髪碧眼!? 越後人だ!?」(なんでだよ)だの、万葉集や因幡国風土記から引用される大法螺だの、あれやこれやの悪ふざけをこれでもかと交えつつ、講談・講釈を意識したというテキストで、本当に聴いているかのようにスルスルと読まされる。演台を叩く音に拍子木、三味線まで聴こえてきそうなノリと勢いがある。誰もが知る戦国武将に、非常にマイナーな各地の城砦、東西離れた場所で覇を競う竹千代と佐吉のライバル関係も熱い。様々な与太も、調べてみるとちゃんと意味や出典があるのが楽しい。一巻とセットで、講釈を聴きに行くつもりで是非どうぞ。



kanadai.hatenablog.jp

髙村資本 『恋は双子で割り切れない4』 (電撃文庫)

悪気のない、何気ない一言だったからかも知れない――だから、余計に辛い。

ねぇ――そういう意味じゃないよね?

神宮寺姉妹からの申し出を断れない。純はそれが間違った優しさだと知っていた。至る所で軋む関係に、純は選択をしようとしていた。

「この恋は、もう保留しない」。帯の文句と話の展開から、もしかして終わるのか……? と思ったら終わらなかった第四巻。ひとつの大きな区切りだと思うんだけど、次は何をどうするんだろう。いつもやり過ぎなほど詳細な出典引用一覧に、ガルパンがないのはなぜだろう(答:引用ではないから)。気になって仕方ない。続きをお待ちしております。

四季大雅 『わたしはあなたの涙になりたい』 (ガガガ文庫)

僕は涙を流した。泣きながら、母さんのお腹に抱きつき、言った。

「痛いでしょう……お母さん、痛いでしょう……」

お腹から聞こえるくぐもった音で、母さんも泣いているのがわかった。首の後ろに、冷たい涙のしずくが落ちた。

「痛くないんだよ……痛くないんだよ……」

そう言って、母さんは何度か、からだをよじった。かなしい動きだった。

小学三年生の少年、三枝八雲は、全身が塩に変わり崩れてゆく難病、「塩化病」にかかった母を見舞っていた。そんなある日、八雲は天才的なピアノの才能を持つ少女、五十嵐揺月と出会う。母を喪って小説を書く八雲と、世界的なピアニストを母に持つ揺月の関係は、時間とともに変化してゆく。

あくまでも青春恋愛小説の体裁を取りつつ、「物語」や「物語化」という概念に真っ向から向き合い、その役割と物語という形で、明確に再帰的に言及する。実在のピアニスト(故人で何度も言及される田中希代子、直接サインを貰うマルタ・アルゲリッチ他)や、主人公の親友が所属する聖光学院の甲子園のスコア(調べたら2012年から2014年までそのままだった)、東日本大震災といった現実のタイムラインを、不穏なユーモアや醜い人間関係、SF的に少し進んだテクノロジーまでまぜこぜにして虚構にまるっと取り込む。あまりに大胆な手口を取ることで、物語そのものを虚実曖昧な、幻想的ですらある立ち位置に置くことに成功していた気がする。最近読んだ本だと小川哲に近い手法かもしれない。

しかしその作業も、今にして思えば、祈りの時間だったように思う。大砲のままでは、誰にも伝わらない。花束のなかに隠さなければならない。そのための花を、ひたすら拾い集めていたのだ。拾い集めるのが、僕の人生なのだ。

フレデリック・ショパン、練習曲作品10第3番『別れの歌』から始まる涙の物語。第16回小学館ライトノベル大賞、大賞受賞作品。どこか自己言及的な雰囲気を漂わせながら、「物語」について考え抜いた姿勢が見える。「花々のあいだに大砲が隠されている」というシューマンのショパン評をそのまま体現してみせたかような、美しくも不穏な傑作だと思いました。

――これでいい。きっと、何かを発信するということは、消費されることと隣り合わせなのだ。大事な思いがいつも届けたい相手だけに伝わるわけがない、途中で余計な金を生み出したり、心ない誰かに唾を吐きかけられたりもするだろう。

けれどそれでいい。大砲を隠した花束のように、消費されることを半分受け入れながら遠くまで飛んでいくといい。そして誰かが困難や絶望に立ち向かうための武器になればいい。



kanadai.hatenablog.jp

新馬場新 『サマータイム・アイスバーグ』 (ガガガ文庫)

海からの風が地面を滑ってくる。きつく冷やされた潮風が肺に流れ込む。視線の先、逃げ水は海に還り、水平線の両端は空の紺碧に押しつぶされている。その中央には、見慣れぬ白。

幼い頃より慣れ親しんだ故郷の海が、進の過去と現在を包摂する母なる存在が、真白の巨塊を抱えていた。ビル? マンション? ドーム球場? いや、その程度の表現では許容できない。過去の記憶や現在の常識からはみ出すあの大きさは、それら建築物風情が代替できるものでは決してない。水平線を覆い、晴天を衝くそれは、まさに海に浮かぶ一峰の孤山。

2035年の夏のはじまり、三浦半島。高校生の進、羽、一輝の三人は、一年前の事故が原因でぎくしゃくした関係が続いていた。三浦半島沖に一夜にして現れた巨大な氷山が、三人の関係と、世界の運命に大きな変化をもたらそうとしていた。

ぎこちない日々を送る三人の高校生、氷山とともに現れた謎の少女、大人たち、巨大氷山がもたらす世界の変化を「夏の主人公」が語る。第16回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞。ガガガ文庫恒例の夏・青春・SF小説。SF描写は非常に流暢で整理されており、夏の学校や、身近な近未来の描写、夏の間に徐々に溶けて、小さく、薄汚くなっていく氷山といった描写も美しい。それとは対象的に時系列や視点が目まぐるしく飛び回り、語り手不明の人物描写が印象に残る。単純に作者が不器用なだけかと思っていたのだけど、読み終わってみると、その地の文まで含めて、「一冊の物語」だったことに気づく。

いやまあ、どこまでが意図してやったことなのかはわからないし、正直言ってかなり読みにくい小説になっているのは間違いない。読んで少し経ってからじわりと愛おしさが溢れてくるタイプの物語だと思う。あらすじに少しでも惹かれるところがあるなら読んでみていいと思う。とてもよかったと思います。

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった9 プロポーズじゃ物足りない』 (スニーカー文庫)

「きみは人一倍聡いのだろう。だからその歳で、早くも気付いてしまったんだ――自分の幸せが、『家庭』の形をしていない、ということに」

季節はクリスマス直前。いさなのイラストに魅入られた水斗は、彼女の才能を伸ばすことに熱中していた。ある日、結女の実父、慶光院と三人で会食をすることになった。良き父親になれなかった慶光院の告白を聞いた水斗は、自分と結女の幸せについて、将来について考えることになる。

永遠はどこにもない。

あるのはきっと、止め処ない変化。

そのすべてを乗り越えた人だけが、幸せに人生を終えられる。

結婚は人生の必須イベントではなくなり、恋愛は一部の人間の趣味になった。そんな現代において、永遠の幸せはあるのか。僕たちは話し合わなければならない。恋愛群像劇の第九巻。幸せは恋愛の形をしているのか高校生が語るには達観しすぎている気もするけど、そこへ踏み込み、大人たちから言葉をもらい、考えて話し合う。当たり前のことを当たり前に書かないこの過程が無茶苦茶うまいと思うし、最高にわくわくした。楽しかったです。

「迷いは、晴らすものではありません。付き合うべきものだと、思います」