あなたという存在はこの世に唯一。だから自分らしさ、個性を大切にしよう、だなんて。
歴史上、最も真実から遠いスローガンだと僕は思っている。だって、ここで言う『個性』というのは、究極的に他人との比較の中でしか見出だせないものだから。自分一人しかいない世界だったら、そもそも個性なんて言葉すら生まれないだろう。
ミューデント。それは、ミュトスとスチューデントから名前が取られた、第二次性徴期から若い間だけ発現する、空想上の存在の特徴を持った生徒たちのこと。普通の高校生、古森翼は、幼なじみの先輩でサキュバスのミューデント、斎院朔夜に振り回され、生徒たちのお悩み相談を受ける「文芸部()」を立ち上げることになる。
サキュバスにウェアキャット、人魚に雪女。望んだわけでも選んだわけでもない、それでいて大したこともできない異能力という「個性」。その発現に翻弄される、思春期の少年少女たちの悩みを描く。与えられた「個性」のおかげで他人や社会からの差別や偏見にさらされ、人間関係がおかしくなり、自分らしさを見失う。そんな彼女たちに「文芸部()」がそっと寄り添う様子には、誠実さと優しさがにじみ出ていた。デビュー作とはちょっと違った形の、でも雰囲気とテーマは共通したとても良い青春小説でした。タイトルと表紙に騙されず読んでみると良いと思います。
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