伴名練 『なめらかな世界と、その敵』 (早川書房)

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

己の持つ力で他人(ひと)の心を正しい方に均すことができるのであれば、いずれ歯止めがきかなくなるかも知れない。世界の大半を己に賛同する、正しい心の持ち主にすることができるのであれば、果たしてその誘惑に、自身が打ち克てるだろうか、そうお考えになったのでしょう。

いくつもの並行世界を自由に行き来する少女たちを描いた「なめらかな世界と、その敵」.ゼロ年代SFの勃興をルポルタージュ風に描いた「ゼロ年代の臨界点」.『ハーモニー』にトリビュートを捧げる,至上の愛の物語,「美亜羽へ贈る拳銃」.世界に平和をもたらした奇跡の聖女に宛てた妹の手紙,「ホーリーアイアンメイデン」.シンギュラリティに到達した1960年代ソ連を描いたおもしろSF「シンギュラリティ・ソヴィエト」.修学旅行帰りの生徒たちを乗せた新幹線を襲った未曾有の災害と,それが引き起こしたものを描いた「ひかりより速く、ゆるやかに」はまさに「いま」を描いたSFだと思う.「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」の手による,『少女禁区』以来二冊目の短編集.どこからも文句のつけようがない.いずれ劣らぬ傑作揃いの短編集でした.

きみはこの物語の結末を知っている。

きみがこの物語の、結末なのだから。



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斉藤すず 『由比ガ浜機械修理相談所』 (電撃の新文芸)

由比ガ浜機械修理相談所 (DENGEKI)

由比ガ浜機械修理相談所 (DENGEKI)

佐藤菖蒲がTOWA達に求めたのは、あくまで「人間らしくあること」であり、彼女達の性能の全ては、この一点にのみつぎ込まれている。このためTOWA達は人智を超えた思考能力を発揮するわけでもなければ、映画に出てくるロボットのような高い運動能力を持っているわけでもない。ビームも当然出さないし、ジェットで空を飛んだりも勿論しない。あまりにも「普通」に「人間らしい」ヒューマノイドなのである。

しかしその結果、彼女達の「人間らしさ」は常軌を逸した水準に到達した。

2023年の夏.勤めていた会社が倒産して,ニート生活を送っていた僕は鎌倉に移り住み,気まぐれに「由比ガ浜機械修理相談所」を開いた.ある日そこに現れたのは,医師の戸川と,ヒトに近づきすぎた機械である「TOWA」.僕が一級調律師として関わっていた「製品」だった.

第25回電撃小説大賞読者賞受賞作.元開発者と女性型ヒューマノイドの心寄せ合うひと夏の共同生活,その末に待つもの.ストーリーには難病ものとゼロ年代エロゲをハイブリッドにしたような趣がある.『天気の子』を観たときにも思ったけど,時代が一周まわった感があるなあ.

二時間アニメにするとちょうどいい情報量とテンポだと思うけど,正直食い足りない.自分が期待したSFチックな部分が少なかったというのもあるけど,ちょっと話運びに都合が良すぎるところがあるかなあ.ひとによってはかなり好くと思うけど,個人的にはあまり乗れなかった.

紫炎 『まのわ 竜の里目指す 私強くなる2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 竜の里目指す 私強くなる 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 竜の里目指す 私強くなる 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

ああ、世界(わたし)が壊れてしまえばいいのに――

佳境に差し掛かった武闘大会.その裏で暗躍する悪魔と人間,そして絶望的な真実がついに明らかにされる.

小説家になろうでは完結済み,紙版はここで打ち切りの異世界転生ファンタジー.話が動いたと思ったら,あまり新鮮味のない真実がえらい唐突に明かされる.伏線というものの大切さを,反面教師的な意味で実感した.最後まで命が軽かったのは受け入れがたかったけど,TRPGのリプレイみたいなものだと思えばまあこんなものなのかな,とは思えるようにはなった.と言って腹が立たないわけではないのだけど.お疲れさまでした.



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牧野圭祐 『月とライカと吸血姫5』 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (5) (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (5) (ガガガ文庫)

【ツィルニトラ共和国連邦の宇宙開発は重病に冒されている。抜本的な治療をしなければ、いずれ死に至るだろう】

1965年.ツィルニトラ共和国連邦とアーナック連合王国の宇宙開発競争が熾烈を極めてゆくなか,資金的に行き詰まる共和国では,上層部の人命軽視と隠蔽体質がますます強くなっていた.そんな折,「人類史上初の宇宙飛行士夫婦」の構想によって,ミハイルとローザは強制結婚を命じられる.

いくつかの「人類史上初」を経て,転機を迎えようとしていた東西大国の宇宙開発競争.そこに待っていたのは,人類史上初の悲劇だった.人類と吸血鬼のオルタナティヴ宇宙開発史,第五巻.今回は共和国連邦側の視点から,宇宙開発の裏を描いてゆく.あとがきで明確にネタバレを禁止している(珍しい)ので,話の流れにはあまり触れないほうがいいのかな.

ここまでの巻に比べると,マクロ(≒現実の宇宙開発史)とミクロ(登場人物の視点)がより有機的に絡み合っていたように思う.物語のタイトルをそこに持ってくるのか,とか,ソ連の宇宙開発にビートルズがそういう精神的影響を与えたのか,とか,大小いろんな部分で感心させられた.今回は文句なしによかったと思います.

手代木正太郎 『むしめづる姫宮さん』 (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

「一寸の虫にも五分の魂という言葉があります」

「小さな虫にも、五分っぱかしの魂はあるって言葉だろ?」

「ええ。でも、虫の魂が五分なら人間の魂だって五分です。五分五分です」

虫の魂が集まる町,宮城県宮城郡浦上町.虫の魂は時に思春期の若者に惹きつけられ,取り憑くことがあるという.ある日突然,身の丈に合わない行動を取るようになってしまった高校生,有吉羽汰は,悪い虫を落としてくれるという山の上の浦上神社に行くことになる.

「ありんこ」を自称する男子高校生と,虫を愛する人見知りの激しい女子高生の出会いと成長を描く,少し不思議な青春小説.とことんまで卑屈な羽汰といい,虫以外のことになるとてんでダメな姫宮さんといい,突き抜けた個性を持ったキャラクターたちが,出会いや虫との邂逅を経て,ちょっとずつちょっとずつ成長する.オーソドックスな題材ではありながら,地に足のついた描写にヒリヒリさせられる.何より,震災で一変してから数年が経った東北の田舎町(作者の故郷がモデルとのこと)の生活を,肩肘張らない自然な視点で描いているのがとても良かった.

作者の現代劇ははじめてだったので,正直最初は結構な違和感があった.派手さはあまりないけれど,「虫の魂も人間の魂も五分五分」という一貫したテーマが感じられる.良い青春小説でした.