――前線だ、と思った。
梅雨前線、桜前線。そこを境に気候や風景を一変させてしまう、決定的な基準……。
彼女の周囲から、モノクロの教室がぶわっと一斉に色付いていく。魔法のように。
――停滞した世界が、今のこの瞬間から、動き出すのかもしれない。
そんな予感だけが、先立ってあって。
幼い頃に別れた、名前も知らない初恋の少女が、高校生になった僕の前に現れた。頭の中に描いていた「理想の少女」そのものの少女、鈴代憬と再会し、新しい時間を過ごしてゆくふたり。だが、違和感はすぐに大きくなってゆく。
以上が、彼女の口から語られた全貌だった。到底信じがたい、嘘みたいな話。
さっきまで理想だったはずのその女が、人間の形をした化け物に見えた。
再会した初恋の少女との甘い日々、だが彼女は大きな秘密を抱えていた。作者の端書きによると「青春ラブコメ」らしいのだけど、これは青春ラブコメではなく催眠とか洗脳とかいうものではないか。終わったかと思った関係を、同情や哀れみやいくつもの感情から切り捨てできない感じ。メンタルが駄目になってベッドから起きられなくなる主人公。その家族。そういった諸々の描写にいやなリアリティがあり、読んでいてずんと落ちてくるものがあった。答え合わせと、前提をすべてひっくり返すちゃぶ台返しが明かされるラストにはすごくびっくりした。続きが読みたいので、ぜひ読まれてほしいし売れてほしいなと思います。




