枢木縁 『横溝碧の倫理なき遊戯の壊し方』 (MF文庫J)

「……貴方は一体、何と戦っているんですか?」

「俺は世界と戦っているんだよ。SNSってのはだな。キラキラした投稿をして、世界中の奴らとマウントを取り合う戦場なんだよ」

SNS上の探偵クラスタで活動するインフルエンサー、横溝碧。ツイッターに上げた推理のインプレッションで食うことを目指していた碧だったが、現状とても生活できる金額ではない。生活費のため、碧は賞金総額百億円の脱出ゲーム、「マーダーノットミステリー」に参加することになる。

世界を牛耳る資本家たちが開催する、ツイッターと専用SNSと超兵器を駆使した悪趣味なデスゲーム。それをぶっ壊すのは、名探偵の曾孫にして現代の安楽椅子探偵、そして引きこもりでスーパーハッカーの妹。オーソドックスなデスゲームもの、というのも変な言い方だけど、徹頭徹尾、あらゆる部分が悪ふざけで出来ている。気になるところ、詰めてほしいところはかなーり多いんでおすすめしにくいんだけど、首尾一貫した姿勢は嫌いになれなかった。

鵜飼有志 『死亡遊戯で飯を食う。7』 (MF文庫J)

「うん」と幽鬼(ユウキ)は言う。「協力してもらってるからね。約束するよ」

あっさりとした答えであった。

しかし、幽鬼(ユウキ)にとっての約束は、命よりも重い。

けじめ。幻影との戦いに勝ち、髪を切ったことをそう表現した幽鬼(ユウキ)は前よりもずっと強くなっていた。順調にゲームを勝ち残り、ある意味平穏な日々を送っていた幽鬼(ユウキ)。しかし、ゲームとは関係ないところでトラブルに巻き込まれる。

ボロアパートの生活に夜間学校、街を支配する不良チームの抗争。珍しくゲーム外の出来事だけで構成された第七巻。今回はギャング小説というかヤンキー小説というか、五巻六巻ともまた違ったにおいがあった。不良たちの抗争に、冷めた視線を持ちつつも律儀で義理堅い部外者の幽鬼(ユウキ)の存在はしっくりと来た。わりと重要な話をしれっと織り交ぜ、最後には何も残らない。この無常。バイオレンス小説かくあるべし。ちょう楽しかったです。

伏見七尾 『獄門撫子此処ニ在リ3 修羅の巷で宴する』 (ガガガ文庫)

「母親とも呼びたくねぇ、こんな奴」――吐き捨てるような言葉とともに、棺は炎に包まれた。

春も近い3月の京都。撫子とアマナは、撫子の従姉妹を名乗る少女、獄門杓奈に襲われる。獄門家当主の座を狙う杓奈は、パートナーの菊理塚みまかとともに本気で撫子を殺そうとしていた。ふたりの因縁と決着は、春の彼岸、大江山大鬼斎で付けられる。

「別段おかしいことでもないでしょう。お父さんだった人も、お兄さんだった人も、お姉さんだった人も――全員、お母様や私よりずっとずっと弱かったんですもの」

「……家族、だったんでしょう?」

「弱いやつなら家族でも淘汰される――それが獄門家です。弱いのは、喰われるだけ」

「……正気で言っているの?」

酒呑童子を慰撫する宴、大江山大鬼斎。現代の鬼の末裔が全国から集まるこの場で、ある儀式が執り行われようとしていた。血と愛憎に塗れた獄門家に生まれ、花の名前を冠したふたりの少女はここで殺し合う。二巻もそうだけど、その時点で書けることを出し惜しみすることなく、全部披露している印象がある。密度があってゴージャス、でも詰め込みすぎてちょっと読みにくいところもある、という。どう足掻いても幸福になれると思えない「鬼」の宿命はどう転がるのか。見守っていきたい所存です。



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野中春樹 『嫉妬探偵の蛇谷さん』 (ガガガ文庫)

「いいわ……っ! 最低に見苦しくて……あなた最高。でも――私を悪者にするのは……」

囁くように、低く低く先輩は声を出した。

「――死んでも許さないから」

園芸部所属、蛇谷カンナ、行動原理は「嫉妬」。あらゆるものに嫉妬を向け、好きなものより嫌いなもので自分を語る。そんな彼女の趣味は犯人――つまり、いくら叩いても構わない「悪者」のいる、謎を解くこと。

第18回小学館ライトノベル大賞優秀賞。黙っていれば美人なのに口を開けば「妬ましい」しか言わない蛇谷カンナ先輩と、考えていることが全部顔に出る僕の「学園青春"探偵"小説」。日常の謎をメインにした、コミカルなキャラクター小説のノリではあるけど、明確な「悪者」を求めているのが異色と言えるかな。蛇谷先輩はなぜ嫉妬するのか、なぜ悪を叩くことに固執するのか。わかりやすい悪者を叩けば何かが解決するのか。蛇谷先輩がとてもいいキャラをしてると思うので、最近の流行りを見るに、メディアミックスされれば話題になりそう。続きとメディアミックス展開を待っています。

鳴海雪華 『余命わずかなキミと一緒に、初恋を探しに行く』 (MF文庫J)

噂は消え、変わるところは変わり、変わらないところは変わらず。エモいことを見つけられていないのに、僕らの日常は歪むだけ歪み、摩耗し、そして消費されている。

高校生の柊透葉は、クラスメイトの暁月杏の「エモ探し」に協力していた。深夜のプールに忍び込んでみたり、夕焼けに照らされた教室でたそがれてみたり。暁月にはふたつの秘密があった。ひとつは彼女が中学卒業まで生きられないと余命宣告されていたこと。もうひとつは、「エモさ」を「寿命」に変えて生きていること。

宣告された余命を伸ばすため、ふたりの高校生は世間で「エモい」とされるものを探し求める。「エモい」という、曖昧で軽くていろいろな意味を内包して、決まった定義はなく簡単に意味の変わる言葉。それに真摯に向き合い、考えぬいて書かれた小説だと思う。「エモい」の理解と使い方は随一だと思う。見つけては喰い尽くされ、命と引換えに空虚なものになっていく「エモさ」には、デビュー作と同様、終わりと破滅のにおいが強く漂う。とても良い青春小説でした。デビュー作も好きだったので、併せて読まれてほしいな。

「ねえ柊くん、結局、エモいってなんなんだろうね」

木の幹の中程で、暁月がそう話しかけてくる。

「やっぱりさ、前まではもっとシンプルだったはずなんだ。世界があって、わたしがいて、綺麗なものとか目新しいものに言語化できないような意味を見出して。それで、エモいって思えていたはずなんだ。なんの疑問もなくエモいって言えてたはずなんだよ」

暁月の声には後悔も落胆もなく、ただ純粋な疑問だけがあった。

「わたしたちを取り巻く環境は、いつから変わっちゃったんだろうね」



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