周藤蓮 『バイオスフィア不動産』 (ハヤカワ文庫JA)

比喩として『世界はバイオスフィアIII型建築に覆い尽くされた』ということはあっても、実際、厳密にそうであるわけではない。地表を見渡せば様々な建築物が残され、致命的な環境破壊を免れて回復しつつある森や海も広がっているのだ。

そこに人がいないというだけで。

内部で資源的、エネルギー的に完結したバイオスフィアIII型建築。住民に恒久的な生活と幸福を約束する住宅の実用化と普及によって、人類は家から一歩も出ることなく一生を終えることが可能となった。住宅の管理を行う後香不動産の社員アレイとユキオは、バイオスフィアIII型建築から寄せられる住民のクレーム対応に走り回る。

「それが異常であるとは思いませんよ。異常さを定義できる客観性は、もうこの地上に残っていませんからね」

遠い未来。人々の一生が家の中で完結するようになり、世界からはヒトと世間と「正気」が失われていた。アレイとユキオは、独自の発達を遂げた奇妙な家々のクレームに振り回されることになる。「ポスト・ステイホームの極北」を描いた連作SF短編。もともと好きで読んでいた作家ではあるし、デビュー作から一貫して「価値観」を描いているのは変わらないのだけど、ここまで器用に作風が違うものを書けるとは思わなかったので驚いた。

どこかシニカルなユーモアや、「人間」に対する視点が柞刈湯葉に近いのかなと感じた。単一の社会が消え、国家が消え、すべてが完結した「家」という世界で過ごすようになったヒトはどのような多様性(?)を獲得し、どのような進化(?)を遂げるのか、とくと御覧あれ。どちらのファンにもぜひ読んでもらいたい。むちゃくちゃ楽しい傑作でした。



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ひたき 『ミミクリー・ガールズII』 (電撃文庫)

「あん? チルドレンってのはカルテルが各国をコントロールするために置いたんじゃねぇのか? カルテルの利益が優先だろ。まさか自分の国に入れ込んじまったのか?」

「私はッ! 極東連邦を導くために育てられたのっ!!」

「……ガキが政治なんて気持ちわりぃんだよ」

2041年。第三次世界大戦後、初の冬季五輪を翌年に控えていた日本で、アメリカ、日本、ロシアから分裂した極東連邦の三カ国会談が開催された。目的は、国際犯罪組織“バル・ベルデ”のテロから札幌五輪を守ること。米国の特殊部隊「ミミクリー・ガールズ」は会談の行われた京都から北へ向かう。

舞台は第三次世界大戦後の日本。大和を超える500mm砲を携えた巨大戦車に国際犯罪組織に戦争屋(ウォー・メイカー)が北海道に上陸する。少女型人工素体に身を包んだ特殊部隊の活躍を描く第二巻。一巻と同様、古今東西の映画やミリタリからいいとこ取りをして、現代SF的アイデアをまぶしたボンクラ極まるアクションエンターテイメント。

少女型人工素体が、物語の読みやすさとストレスの無さに良い方向に効いているのだと思う。少女型人工素体とデザイナーズチルドレンという、傍から見れば似たような存在に、はっきりとした立場の違いや、大人と子供の違いを与えているのも、話の都合もあれどそれぞれの存在感を高めていて良かった。大人の都合、子供の立場。国家の思惑、企業の利益といった構図を、肩のこらない語りに乗せて見せてくれた。「あまり難しいことは考えず、ただトンパチを楽しんで頂く」という目標は十二分に達成されているし、それにとどまらない。アクション映画を観るように、気軽に読んでみてほしいと思える作品でした。



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東崎惟子 『竜の姫ブリュンヒルド』 (電源文庫)

『ありがとうございます……』

ブリュンヒルドは涙を流した。竜はそれを感謝の涙と理解して微笑んだが、違う。

悔し涙だった。

邪竜の侵略に脅かされ、神竜の庇護の下にある小国ノーヴェルラント。竜の言葉を解する家系に生まれたブリュンヒルドは、巫女として竜に仕えていた。

神の竜は、人々を庇護する見返りとして巫女より供物を捧げられていた。『竜殺しのブリュンヒルド』の別の時間の出来事を描いたデビュー第二作。「竜殺し~」と同様、ファンタジーというよりは、おとぎ話か神話に印象は近い。ブリュンヒルドを始め、主となる四人のひとりひとりに光を当てながら、群像劇風にヒトの世界の物語を描いていた、のだと思う。ひとの心を理解できなかったが故に、愛や正義に幻想を抱いたという、とある登場人物が個人的にとても印象に強く残った。

前巻が見事に完結していただけに、あとがきで語っている苦労の跡は確かにはっきり見えるんだけど、同時に「竜殺し~」を十日で書いたということのほうがおかしいのではなかろうか。とても良い作品でした。



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てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様 4』 (MF文庫J)

「機械と人間――愛する者同士が現世で結ばれないことに絶望して心中した。それならそれでもいい。心中するのにここまでバラバラにする必要があるかな? 色気も何もない」

「色気って」

「そこに何か強い怒りのようなものを感じるのは私だけかな?」

屈斜路湖上に建設された屈斜路刑務所、通称シャーロック・プリズン。一万人を超える受刑者を収容したこの刑務所は、アンドロイド、ガイノイドから構成されるオートワーカーを擁する最先端の研究実験施設でもあった。ある日、男性受刑者とガイノイドの看守が心中したとみられる事件が起こる。現場は密室。人間を殺せないはずのロボットは、いかにして心中を果たしたのか?

シリーズ第四巻は「シャーロック・プリズン殺人事件」前後編。湖上のクローズドな刑務所、密室の心中事件。ロボット三原則に縛られたロボットは、ひとを殺すことができるのか? あまりに古典的なテーマに、死んで生き返る探偵が挑む。ロボット、アンドロイド、ガイノイド、セクサロイドの現代的な解釈を含め、古めかしいテーマに新しい回答を出すことに成功していたと思う。前も書いた気がするんだけど、「死んでは生き返る探偵」に、ちゃんと意味を持たせようとしているのも良い。わりと現代SFミステリ入門に向いていると思うんだよね。巻を追うごとにしっかり面白くなっているし、次の巻あたりから物語が大きく動きそうなので、ひとまず手に取ってみてもいいかもしれない。

「遠からず世界は神秘(オカルト)論理(ロジック)が入り混じり、ボーダーレス化していくだろう。事件も変わっていく。なら探偵も変わらなきゃな」

さがら総 『恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話』 (MF文庫J)

たとえば一人称で語られる物語世界において、主観視点にはおよそ根拠がない。

すべての地の文は疑ってかかる必要があるのだと、少女は言う。

十数年前、太平洋の海に大量の隕石が降り注いだ。その頃に生まれた子どもたちには、なんらかの「呪い」が芽生えたのだという。南の孤島、星堕ち島には、そんな「隕石に選ばれた」星堕ちの子どもが集められ、学園で教育を受けていた。

「真実はひとつだ。人の数だけ、嘘がある」

他人の感情に触れることができる少年、時間を5秒追加できる少女、世界に怪獣を見る少女。とある孤島の学園を舞台にした群像劇。あなたとわたしはわかりあえない。主観はすれ違い交わることはない。それでも誰もが恋をする。という。作中で触れているし作者の作風でもあるけど、短い時間の出来事をそれぞれの「主観」で語ることで、一種の叙述トリックめいた感覚と、触れてはいけないものに触れた背徳感みたいなものがある。「またこいつ主観の話してんな」(「あとがき」より)に加えて、「またこいつ星の王子様の話してんな」、「またこいつ猫神様(略」という話でもあった。そういう意味で、作者の集大成なのかもしれない。