岬鷺宮 『日和ちゃんのお願いは絶対4』 (電撃文庫)

まるで、景色の中に透き通っていくみたいに。世界全体に溶けていくみたいに。

彼女は触れがたいほどに透明に、清くそこにある――。

俺は、彼女が恐ろしかった。

そんな風に、純度を極限まで高めていく彼女に、恐怖を覚えていた。

――こんなものが、恋だろうか。

日和が呉から居なくなって数ヶ月。世界は確実に壊れつつあった。失われる「日常」を守るため、地域の小中学校や自治会と合同で文化祭を開催しようと準備する深春たち。そのさなかに、日和は再び現れる。

せめてもの日常を守ろうとする深春と、世界のすべてを諦めてしまった日和の「恋」。世界の終わりを描く直球のセカイ系ラブストーリー。「自分にできること」を精一杯やる、という意味では同じことをしていたふたりが、実はまったく別のものを見ていた、というすれ違うべくして起こったすれ違いだったのだと思う。自分が高校生活に感じていた空気は「セカイ系」で語られるそれに近いものだった、という作者があとがきで語る体感が興味深い。寂しさとか、何かしなきゃという焦燥感みたいなもの、だろうか。結末がどのようなものになるのか、見守りたいと思います。

菊石まれほ 『ユア・フォルマIII 電策官エチカと群衆の見た夢』 (電撃文庫)

――大丈夫。

どんな痛みでも、いつかは消える。

たとえ、消えて欲しくなくても。

流れ落ちる季節が全てを平らに消えていくことを、母を失ったビガはよく知っている――だから身を任せればいい。トナカイたちが長い冬も短い夏も、淡々と過ごしていくように。

でなければきっと、複雑すぎる世界のどこかで、自分を見失ってしまうから。

ハロルドを守るため、重大な秘密を抱えることになったまま、捜査に従事するエチカ。ある日、国際刑事警察機構(インターポール)電子犯罪捜査局本部から、捜査情報が流出したとのメッセージが届く。情報を流出させたのは〈E〉を名乗る匿名ユーザー。一年半前から巨大匿名掲示板で様々な「予言」でユーザーたちを扇動し、信奉者を集めつつあった。時を同じくして、エチカは電策能力を突然失ってしまう。

パートナーを解消され、別々に捜査にあたることになったエチカとハロルド。サンクトペテルブルク、リヨン、オスロをまたぎ、それぞれに〈E〉を追う中で、テクノロジーが社会とヒトにもたらしたものを目の当たりにする。シリーズ三巻は、あとがきによればテクノロジーに祝福「されない」側に生まれた人間たちの物語。

ユア・フォルマユーザーを「糸人間」と呼ぶ機械否定派(ラッダイト)はテクノロジーによってメインストリームから分断され、現状の不遇を憎み、ネットワーク上に現れた匿名の陰謀論者に扇動され、実際に行動を起こす。ここ2年の世界情勢が如実に反映された物語になっている。エチカとハロルドの間にある小さくて複雑な物語と、世界中を巻き込み現実側に軸脚を置いたSF的な物語がふたつの渦のよう。独特の間が心地よい文章は変わらず非常に読みやすく、複雑なストーリーも不思議なくらい飲み込める。本当に良いシリーズだと思います。



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鳩見すた 『アリクイのいんぼう 魔女と魔法のモカロールと消しハン』 (メディアワークス文庫)

変わったのは時代じゃない。

少々気づくのが遅かったが、気がつけただけマシだろう。

川沙希は望口。ミナミコアリクイの店主がトレードマークのハンコ店兼喫茶店、有久井印房。ついにミナミコアリクイが店主を務める理由が判明する(?)シリーズ三巻。すべて語り手が異なる四つの短編は、時間も場所も飛び越えて、見事に起承転結を成していた。個々の短編も語りが巧みで、働くお母さんの呪詛と苦悩を描く第一話があまりにもリアリティがありすぎて泣きそうになってしまった。

ハンコという、時代遅れの象徴になりつつあるものが、時間とひとをつないでゆく。それが、単なる人情噺でとどまらない。もっと多くの人に読まれていい、少し不思議な余韻を残しながらも元気の出る作品だと思っております。



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葉月文 『ホヅミ先生と茉莉くんと。 Day.1 女子高生、はじめてのおてつだい』 (電撃文庫)

これは、作家と女子高生。

そして多分、本の数だけ存在する僕と君を巡るとても大切な話だ。

作家としてデビューして6年。重版未経験の作家、ホヅミこと空束朔はスランプに陥っていた。渾身の原稿が全ボツとなり、編集から意に沿わない売れ線のラブコメを書くよう指示される。くさくさした気分でアパートに帰り着いた朔は、玄関前でひとりの女子高生に出会う。

売れない作家と女子高生の、特別で奇跡のような日々に起こったこと。女子高生との、いわゆる押しかけ女房テンプレラブコメな日常。その中で、ラブコメを書くこと、小説を書くこと、物語を語ることを見つめ直してゆく。いかにもラブコメらしい退屈なラブコメかと思いきや、完全に裏切られた。物語を書き続けることを、これ以上ないくらいポジティブに捉えた、幸福な小説だったと思う。続きも買います。


言いっ放しの、自己満足だけどさ。

作家と読者の関係なんてそんなもんだろう。ハッピー、ラッキー、みんなにとーどけ、と願いを込めて僕ら(作家)が物語を投げかける一方、それを受け取ってどうするかは彼女たち(読者)の自由。それでも、どうか笑って欲しいと強欲に願うのが、叫び続けるのが、不器用な僕らだ。

竹林七草 『ヒルコノメ』 (二見ホラー×ミステリ文庫)

その小山の上に、人が立っていたのだ。

いや、あれを人と称していいのか――美彌子の中に、ざわついた疑念が浮かび上がる。

なんだろう……遠目だからはっきりとはわからないが、けれども人として歪であまりにもありえない輪郭をしているように、美彌子は感じた。

祖母の葬式のため、ひとりで奈良の田舎を訪れた大学生の橘美彌子は、火葬場からの帰りに歪な人影を目撃する。その後、東京に戻った美彌子の周りの人々が、次々に変死を遂げる。彼らはみな一様に「ワギモハイズコ」という謎の言葉を遺していた。

「蛭児」の文字の形に浮かぶ腕の傷。首の周りに浮かぶ先のような赤い痣。関わった者から首を奪う首なしの黒い異形、ヒルコの正体を追う日本の歴史×ホラー×ミステリ。実在する神社、古墳をめぐり、記紀神話の成立史とその闇から異形の正体を推理し追っていく展開は、MMRを思い出させるものだった。ちょう怖くて、めっちゃ人死の出る令和のMMR。物語のベースとなる情報はほとんどが実在のものなので、だいたいのあらましはWikipediaなどで読める。本書を読み終わってから、いろいろ検索してみると、さらに背筋が寒くなれるかもしれない。恐怖心と知識欲をまとめてくすぐられる良いホラーでした。