宮下愚弟 『名前のない英雄』 (ガガガ文庫)

「英雄とは希望を紡ぐすべての者だ。希望という灯火を受け継いだ者はみな英雄なのだ」

人類と邪族がそれぞれの生存をかけて全面戦争をしていた時代。不治の病を抱える妹とふたりで暮らしていた少年は、妹の治療のため、人類の切り札である〈勇者の剣〉捜索隊に加わる。

とある少年と騎士たちが英雄となるまでの物語。第19回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。英雄とは勇者だけではなく、希望を紡ぐ者たちだ、という王道のファンタジーだと思う。暁の騎士団のメンバーそれぞれの過去や生き様を、群像劇のスタイルで語り、重い過去を抱えた盲目の魔術師や、耳を削がれた破戒僧といった面々も、良い意味で印象が変わってゆく。2/3を過ぎたくらいでタイトルやストーリーテリングの意味に気づけたときには素直に感動した(たぶん平均的読者より遅かったと思う)。派手ではないけど、とても誠実な物語だったと思います。

ミストラに背を向けて山道を駆けつづけた。すっかり夜の闇があたりを覆っている。

息が苦しい。肺が灼けるようだ。足が重たい。関節が痛い。体がバラバラになりそうだ。

身に着けている全てが邪魔くさい。叶うなら捨ててしまいたい。

背嚢も、弓も、矢筒も、小刀も、地図も、携帯食料もぜんぶぜんぶ。

とりわけ、抱えている〈勇者の剣〉が重たい。軽いのに、重たい。

フォーデン王国の未来がかかった代物だ。

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった13 あなたにこの世で誰よりも』 (スニーカー文庫)

クリエイターも人間だ。

そんなこと、そこらの連中よりもよっぽどわかっているつもりでいた。

でも僕は、結局彼女を――彼女たちのことを、作品を生み出す装置だと思っていたのか?

彼女たちの才能を見るばかりで、彼女たちという人間を見てはいなかったか?

水斗のプロデュースでイラストレーターとして歩き始めたいさなに、ライトノベルの依頼が舞い込む。時を同じくして文化祭。同級生の強引な依頼で、いさなはクラスの出し物の看板を描くことになる。

ラブコメという武器を手に、クリエイターの熱だったりエゴだったり孤独だったり人生だったり覚悟だったり、を語ってゆく。ここまでの12巻があるからこそできた、異色な巻ではあると思う。「Tier1姉妹」とは違ってあとがきはないのだけど、それこそ作者のエゴで書かれた巻でもあるのかな。ラスト、ついにやってくる「そのとき」が予告される。楽しみにしています。



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紙城境介 『Tier1姉妹3 元カノ■女は僕なしでは進めない』 (スニーカー文庫)

を褒めて。

を認めて。

を選んで。

あなたに選んでもらうために、はこうして生きている。

梅瑠のゴリ押しに負けて、織見は二ヶ月限定の暫定彼氏になり、四姉妹の関係に変化が生まれる。織見は7年前の記憶を取り戻すために、吉城寺家の伊豆旅行に同行することにする。次第に思い出が蘇ってゆく。

思い出の地で7年前の記憶が、出来事が蘇る。物語を牽引していたいくつかの謎が明かされ、一気に話が進んだ第三巻。もっと引っ張ると思っていたので普通にびっくりした。理由を(対談形式の)あとがきでぶっちゃけているのはいいと思う。良くも悪くも、あとがきを含めて一冊の作品だなと思いました。ラブコメが好きなら、さらにキャラと作者の対談形式のあとがきが好きなら読むといい。

悠木りん 『だれがわたしの百合なのか!? 2』 (ガガガ文庫)

真っ直ぐに見つめていた瞳が、やがて、ふっと離れた。彼女の肩越し、夜空が戻ってくる。

さっきまでの熱を隠すように、京は密やかに微笑んだ。

「贔屓してるの。好きな人だから」

言葉とは裏腹に、その表情はとても清々しくて、わたしは「……そっかぁ」と気の利かない返事しかできなかった。

生徒会選挙を経て、ラブレターの差出人、「リリー」の候補はふたりに絞られた。並木ひと葉は3人とデートを続けつつ、生徒会活動もこなす忙しい日々を送っていた。やがてやってくる生徒会運営のレクリエーション合宿で事件が起こる。

季節は夏、ロケーションは海、百合ロマンスの予感……! 今回は生徒会ギャルの生き様に焦点を当てた、ハーレム百合人狼の第二巻。友達のために良かれと思ってやったことが裏目になったり、大した価値がないとわかっている「普通」を守っていたことが誰かの救いになっていたり、ままならないけどいいよね、という。コメディタッチが前に出ているけど、人間関係の描き方の芯はデビュー作から変わっていないと言えるかな。気持ちの良い作品だと思います。



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犬怪寅日子 『ガールズ・アット・ジ・エッジ』 (ハヤカワ文庫JA)

慣れないでどう生きるというのだ?

程度の差こそあれ、女として生きるということはそういうことだろう。蔑まれることに慣れること。馬鹿にされることに慣れること。そういう事実を口にしないこと。何もそれは、風俗嬢に限ったことではない。

それとも、真にはその瞬間が訪れたことがないのだろうか? あるいは真に限らず、一定の人間にしかその時は訪れないのか。

そんな。

ある真夏の日。ピンサロ店でひとりの黒服が殺された。現場に居合わせたのは、四人のピンサロ嬢とひとりのボーイ。五人は死体を風呂場で解体し、山奥に遺棄する計画を立てる。誰が黒服を直接殺したのか。ピンサロ店で何が起こったのか。

四人のピンサロ嬢とひとりのボーイは、どのようにして殺害の瞬間に至ったのか。ピンサロという舞台で、色々な形で人生を奪われてきた女たちの生き様を語る。『羊式型人間模擬機』と同様に情感の込められた端正な文章が、すっと頭に入ってきてさくっと胸に刺さる。店のディテールやにおいまで自然に浮かぶ。ピンサロ店で働くようになるまでに様々な人生があり、ピンサロ店で働くことによって人生が交錯し、気づいてしまう。自由で晴れやかな終幕には涙が出そうになった。

「一瞬でも同じ世界にいられたということは、未来の救いになるはずです。だから私はこの先どうなっても、あの時のことも、今日のことも、忘れません」

私たちは今、同じ世界にいるんですよ。と、聡明な彼女は願うように呟いた。

傑作だと思います。

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