松山剛 『死神さん、優しく殺してキスをして』 (電撃文庫)

「悪い夢を見てるみたいだ……」

僕がつぶやくと、メアリーはよく見るテレビ番組みたいに言った。

「私、毎日こういうの見てるわ」

ロンドンに朝が来なくなって八年と三ヶ月。ある事情から“死神”と契約した学生のジェームズは、自らも“死神”としての副業をこなしていた。ある日、ジェームズは銀髪のシスター、メアリー・ストランドと出会う。不死の“聖女”メアリーは、ジェームズに自分を殺してほしいと依頼する。

闇に包まれたロンドン。死神の少年と不死の聖女が出会い、命をかけた契約を結ぶ。お手本のようなかっちりとした場面説明が印象的なボーイ・ミーツ・ガール。説明が難しいんだけど、小説を読んでいるというより、一本のノベルゲームを読んでいるような印象を受けた。パブでの殺戮劇など良い場面もあるのだけど、かっちりしすぎていて個人的にはあまり印象に残らないタイプの小説ではあった。

塗田一帆 『1/nのワトソン』 (ガガガ文庫)

一体、誰を責めればいいのか。

唯一救いがあったとすれば、彼女はもう苦しまなくていい、という事実によるものだった。

Vtuberなんて辞めて、どこか遠い世界で幸せになってほしい。

インターネットは最悪だ。

探偵系Vtuberほむるちゃん。彼女のもとには、一風変わった依頼が舞い込む。推理をするのは、1万人のチャンネル登録者。エンジニアとして活躍している高校生の啓は、Vtuberオタクで幼なじみのひかりに強引に誘われ、「推理のクラウドソーシング」に参加することになる。

メタバース、開発中の格闘ゲーム、引退ライブ。1万人のワトソンたちによる、愛のある“正解”探しの推理合戦。第19回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。現代社会に、Vtuberとインターネットが密接に影響し絡みあう。ほむるちゃんの選ぶ“正解”が必ずしも「真実」と限らないのが味噌と言えるかな。最悪なインターネットに、それでも愛とヌクモリティを見つけたい。野尻抱介や木本雅彦を思わせる、テクノロジー信仰とギークの小説だった。『鈴波アミを待っています』と合わせて読まれるといいな。良い小説だったと思います。



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てにをは 『また殺されてしまったのですね、探偵様 6』 (MF文庫J)

氷室の中央に寝かされていたのは男の死体でした。

そしてその死体には首がございませんでした。

ひんやりとした空気が私の肩を撫でていきます。

首を断たれて殺された探偵、追月朔也が見知らぬ屋敷で目を覚ますと、自分の身体に知らない頭が乗っていた。首の持ち主は、探偵一族鴉骸木家の次期当主、鴉骸木學水。他人の頭に自分の意識が乗っている奇妙な状況に陥った朔也は、鴉骸木家殺人事件の謎を解くことにする。

場所は因習村の巨大な屋敷、被疑者と容疑者は探偵一族、鴉骸木家。自分の身体に他人の頭、なのに意識は自分が持っている。この奇妙な状況で公開密室殺人事件が起こる。舞台がいきなり変わって、てんこ盛り盛りなシリーズ第六巻。「死んで生き返る探偵」というシリーズの特徴に加えて、「神秘(オカルト)論理(ロジック)が入り混じる」というエクスキューズとハッタリの使い方が本当に巻を追って上手くなっている。満足した。アニメ化も控えて、今後がますます楽しみです。




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最条真 『魔女と毒殺文芸部 Curse.01 『不死』の魔女は僕に殺されたいようです。』 (MF文庫J)

彼女は微笑みのまま。

左手の薬指を、僕に向かって差し出した。

「噛んで」

端的な要求。

「指を噛んで欲しいの。血が出ないくらいの弱さで。それでも、跡が残るくらいの強さで。強く、だけど、優しく噛んで欲しいの」

悪魔に不死の呪いをかけられた少女、胡桃沢加恋。彼女が死ぬたったひとつの方法は、真に彼女を愛する恋人に殺されること。死を望む加恋のため、彼女が好きで好きでたまらない僕は、その願いを叶えないために行動する。

死にたがりの少女と悪魔と天使と。第21回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作。軽薄で性欲を隠さない会話のノリと、脈絡があるようなないようなストーリーの転換に、西尾維新っぽさを感じた。PVは見ていないんだけど、言われてしまうと上田麗奈の声にしか聴こえなくなるヒロイン、胡桃沢加恋に狂えるならハマる。そうでないなら、どうだろう。軽薄さと湿度が変なレベルで同居した、変な青春小説だと思います。



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罠和ノワナ 『やぁ“登校”に挑めニンゲン ~ゲーマー共は武器を片手に歪んだ校舎を踏破する~』 (MF文庫J)

晴斗と七姫の思惑と性別は交差し捻れ、複雑に絡み合う。彩淵学園では「触れられるホログラム」によって、あらゆる真偽の区別がつかなくなった。

今や言葉に宿る本物の行為すらも、(ホログラム)に隠れて届かない。

eスポーツに力を入れ、超最新設備の揃うハイテク教育機関、彩淵学園。スカウトを受けて入学した新入生、羽零晴斗は、学園管理AIが放課後に生成するダンジョンを日々攻略することになる。

第21回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞&鈴木大輔賞、W受賞作。AIやeスポーツなどを取り入れ、ジェンダー観やバトルをする理由を令和向けにアップデートした「バカとテストと召喚獣」という趣がある。ドタバタしたテキストやラブコメの感じも平成の感じがあり、興味深い。一方でキーとなる「触れるホログラム」を含めたARの使い方とか、AIが反乱するときの仕草に、旧き良きサイバーパンクっぽさがあるんだよな。まあ、そんなことないとか古臭いだけとか言われたら反論はしないけど。とりあえず、あらすじや感想で気になる部分があれば読んでみてもいい。最優秀賞は伊達じゃないと思います。