赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊! 2』 (ガガガ文庫)

塀の陰から現れたのは――巨大な金属の塊だった。

それまでどこに身を潜めていたのか。身の丈三メートルはあるだろう漆黒の鎧。身長よりもさらに大ぶりなロングソード。顔全体を覆う兜の隙間からは赤い光が眼光のようにひとつ瞬き――俺を見下ろしていた。

そしてそいつは男女の判別のつかない濁った声で、確かにこう言ったのだ。

『ロリコン……滅ぶべし……』

淫魔眼と絶頂除霊(テクノブレイカー)によって乳避け女を退け,退魔師の仮免許を手に入れた晴久たちは,通称ロリコンスレイヤーと呼ばれる怪異を追っていた.……のだが,その能力を危険視した退魔師協会によって,監視役をつけられることになってしまう.やってきたのは晴久の妹分,文鳥桜だった.

アイエエエ! とは言わないロリコンスレイヤー登場の巻.乳だの絶頂だの言っているけど,やっていることは良くも悪くも手堅い異能アクションだと思う.「下セカ」同様,テキストのセンスで読ませてくれる印象.バトルで飛び交うのが血じゃなくて謎の体液だったり,えらいぬるぬるしててくさそうなクライマックスがその理由付けも含めて良い感じ.なんだかんだと楽しく読んでおります.

カミツキレイニー 『それでも異能兵器はラブコメがしたい』 (スニーカー文庫)

それでも異能兵器はラブコメがしたい (角川スニーカー文庫)

それでも異能兵器はラブコメがしたい (角川スニーカー文庫)

二〇一九年二月十四日。その日、人類は月の一部を失った。

――が。

それはそれとして置いといて。

この物語は、SFでも異能アクションでもなく、あくまでもラブコメと注意されたし。

――普通の子みたいになりたいな_(:3」∠)_

辰巳千樫は,市ヶ谷すずが好きだ.初めて好きになった2011年,突然の別れとなった2016年.そして月がかじられた2019年.3年ぶりにすずに再会した千樫は,遠回しなアプローチを繰り返す.そして初めてのデートとなった池袋で,千樫はすずを狙ったテロに巻き込まれて命を落とす.

「異能兵器」である少女は,ラブコメのような学園生活を送ることを望んでいた.『最終兵器彼女』のような設定から始まる,東武東上線沿線を舞台にしたラブコメ.引用部分でも言っているように「あくまでもラブコメ」として書いてるのが面白い.記憶を消され,テロに巻き込まれ,人間ではなく「異能兵器」として扱われるけれど,誰も死なないし,なんかドタバタしている.なんというか,セカイ系異能バトルの持つ辛気臭さを,ラブコメの文法でいかに昇華できるか,みたいな実験精神と力強さを感じた.世界に5人しかいない異能兵器が3人も集まっちゃっただとか,あっさりテロを許してるんじゃねーよとか,ラブコメにしてもご都合主義が少々強めなのが気になったところ.なんだかんだと悪くない.続きを楽しみにしてます.

さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目 (MF文庫J)

文章が読みづらく、テクニックに欠けて、物語構造もめちゃくちゃなのに。

自分の書きたいことだけを書いて、読者のことなんてこれっぽっちも考えていないのに。

井戸の底に隠された宝石の輝きが、俺の魂を捉えて離さない。打ち上がったロケットの軌跡を追いかけたくてたまらない。

俺も、かつては、こういう話を。

こういう話こそが、書きたかったんじゃないのか。

中学受験指導塾に勤める塾講師の天神が,MF文庫Jライトノベル大賞でデビューしてから5年が経った.塾の仕事に熱意はなく,創作にも情熱の気持ちはない.小学生の国語を担当する彼はある日,中等部の生徒,筒隠星花に小説の指導をしてほしいとお願い(脅迫)を受ける.

『変態王子と笑わない猫。』最終巻(感想)と同時発売の新シリーズ.調布のあたりを舞台に,書くことと学習塾運営,それぞれの大変さを描く.テーマ的には「変猫」と「“文学少女”」シリーズのハイブリッドという雰囲気.タイトルで損している印象があるかなあ.

妙にリアリティのある学習塾事情の数々に胃と頭が痛くなり,書くこと・書き続けることや売れることに対する「才能」の語りに心が痛くなる.やっぱりあれ売れなかったのか……みたいな.キャラクターの名前が一部で「変猫」と共通しており,どこかで繋がる可能性もあるのかな.どういう方向の話になるのかまだわからないけど,続きをお待ちしております.

さがら総 『変態王子と笑わない猫。12』 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。12 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。12 (MF文庫J)

だれかを助けるために生きてきた。オスカー・ワイルドの『幸福な王子』のように、思い出を分け与えて、女の子の涙をとめることに価値があると信じた世界で。

でも――そうじゃないのだと、かつての未来で、いつかの過去で、教えてもらったのだ。ぼくのいっとう好きだった、お母さんがわりの人に。

何もかも変わってしまった世界で,大切な人たちのことをもう一度思い出すために,時間を進めよう.手元にあるのは横寺くんの言動を綴った,全11巻にも渡る横寺くんノート.

約2年ぶりの新刊にしてシリーズ完結編.完結させるために書いたような雰囲気があるけど,ひとつのけじめをつけてくれたことには感謝したい.どこにも悪いやつなんていなかったし,実際のところ何もする必要はなかった.みんなが幸せになるのに,誰かが犠牲になる必要はなかったのだ,という.これは信頼できない語り手の話だ,と自分がずっと主張してきたことがあながち間違いでもないことがわかって,個人的にはとてもすっきりした.お疲れ様でした.

樫本燕 『僕の知らないラブコメ2』 (MF文庫J)

僕の知らないラブコメ 2 (MF文庫J)

僕の知らないラブコメ 2 (MF文庫J)

……僕に能力を発動する気がなかったのに、時間は早送りされた。これはいったいどういうことなんだろう。

自分の意思とは無関係に時間が早送りされる。

それはちょっと怖すぎる。

晴れて希美と彼氏彼女になった優太.早送り能力は封印してふたりの思い出を作っていこう.そう決意をしたその矢先,まったく意図しない早送りが発動してしまう.優太が今日だと思っていた日はすでに2週間前となり,その間に考えもしなかったクラスの風紀委員になっていた.

「早送り」によって,知らぬ間に巻き込まれていた系ラブコメ,第二巻.今回は堅物で怒りっぽくて苦手だなと思っていた風紀委員と知らぬ間にいい仲になっていたでござるの巻.ミステリではないんだけど,話の組み立ては出題編からの解答編,みたいな趣がある.一巻(感想)とほぼ同じ流れで,主人公が主体的に動くというよりは,後追いで行動しているところが多いのが気になる.悪い小説ではないと思うのだけど,大きな流れも含めて,ちょっと個人的に気に入らないところが多いかなあ.