鴨志田一 『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』 (電撃文庫)

青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)

「ご褒美になにしてほしいのよ」

呆れたように麻衣が聞いてくる。

「ずっと一緒にいてください」

「そんなことでいいんだ」

どこか楽しそうに麻衣は笑っていた。

前に進むために未来を否定し,愛するひとと自分のために改めて選択する.『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』の衝撃的なラストから始まる,シリーズ第七巻.ひとつの大きな区切りなのかな.シリーズ一作目の仕掛けも使いながら,咲太の決意とその結果を描く.初恋の少女と現在の恋人という対比がウェットすぎて,好みからちょっと外れるのだけど,これまでの集大成としてはこれ以上のものはないのだろうなと思う.引き続き,追いかけさせていただきます.



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岩城裕明 『呪いに首はありますか』 (実業之日本社)

呪いに首はありますか

呪いに首はありますか

相談者である男は一度唾を飲み込むと、

「それが、うちに幽霊の死体が出るんです」

そう言った。

「なるほど」と恵介は頷きかけて止まる。「幽霊の死体ってなんですか?」

久那納家には,長子が三十歳までに必ず死ぬという呪いがかけられていた.28歳の久那納恵介は,「心霊科医」を名乗って相棒で幽霊の墓麿とともに怪しいクリニックを運営している.呪いを解く方法を探すため,ふたりは霊に関する相談を解き明かしてゆく.

ホラーミステリの連作短篇集.幽霊の死体が出るだの,他人に見えないはずの幽霊が誘拐されただのといった,ともすればのんきにも見えるおかしな心霊相談が,やがて短命の呪いの真実に近づいてゆく.短篇ごとのネタに対する目のつけどころもさることながら,ユーモアのある語りから異様な着地点への自然な誘導が良い.毎度うまいと思う.

短篇ひとつひとつが伏線になり,少しずつ明かされる真実がラストに向けて収束する.連作短篇の醍醐味は十分.表紙の意味が明らかになってから,他にどうしようもないラストに至るまでの切なさ,強烈なやるせなさは胸に来るものがある.良いものだと思います.

相沢沙呼 『小説の神様 あなたを読む物語(上)』 (講談社タイガ)

小説の神様 あなたを読む物語(上) (講談社タイガ)

小説の神様 あなたを読む物語(上) (講談社タイガ)

想像、できないのだろう。

読者の想像力は、そこまで落ちたのだ。

僕たちが相手にしている読み手は、その程度の想像力しか持ち合わせていない。

「帆舞こまに」というペンネームで合作小説を発表した一也は,共作相手の小余綾が言った続刊を出したくないという言葉の真意を測りかねていた.一方で,文芸部の後輩,成瀬は自分が物語を書くきっかけになった友人との再会を望んでいた.

物語はひとの心を動かすのか.そもそも現代において,物語は誰かの心まで届くのか.ネットの感想に傷つけられ,違法な海賊版サイトとその利用者に絶望する.努力や才能は,運に勝てない.「物語」への想いが辛辣な言葉で語られる,『小説の神様』の続編.読者への諦念を叫ぶかのように,まるで小説の技巧をかなぐり捨てたかのような直接的な言葉を叩きつける.果たしてこの醜い現実に物語の居場所はあるのか,どういう結論を出すのか.今月に出る下巻を待とうと思います.

物語は人の心を動かさない。

わたし自身の存在が、どうしようもなくその事実を証明していた。

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名倉編 『異セカイ系』 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

あー。なにから書けばいいかな。いままでとちょい勝手ちゃうから戸惑う。

要するに。

助けてください

ゆうわけです。

小説投稿サイトでトップ10入りを果たしたおれは,ひょんなことから現実と自分の書いた小説世界を自由に行き来する能力を手に入れる.現実と異世界の行ったり来たりをエンジョイしていたおれは,小説世界の王女が間もなく殺されてしまう運命を悟る.それは,おれが書いた小説の筋書き通りだった.

第58回メフィスト賞受賞作.現実のおれ=作者=主人公の自己満足によって意図せず生まれてしまった異世界.現実も異世界も物語も含めたすべてのセカイを救おうとするおれは,「作者への挑戦状」を突きつけられる.なろう小説から生まれた世界がメタ的に現実を巻き込んでゆく,クラインの壺状の構造は実にメフィスト賞らしい.

なかなかひねくれた手法と対象的に主人公が徹頭徹尾善人で,ここはまったくメフィスト賞らしくない.物語と現実の構造と関係,作者が「世界」を作り操ることのエゴ,作者の生み出したキャラクターの自由意志の尊重.物語への愛ゆえに心から悩み,正直に行動する関西弁の主人公には胸を打たれた.テーマに対する真摯な姿勢が見えて,期待していたのとはだいぶ方向が違ったけどとても良いものでした.

酒井田寛太郎 『ジャナ研の憂鬱な事件簿4』 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (4) (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (4) (ガガガ文庫)

「ええ、確かに部屋は荒らされています。しかし、なんというか……違和感があるといいますか……おかしな言い方かもしれませんが、空き巣のスタンダードから外れているような気がするのです」

ジャナ研こと海新高校ジャーナリズム研究会の面々は,鎌倉の老人介護施設にボランティアに訪れる.そこで起こった盗難未遂事件が,啓介と真冬の距離に微妙な影を落とすことになる.

真実を探り当てることが本当に正しいことなのか.悩みながら日常の謎に挑み続ける,学園ミステリシリーズ四巻は,「金魚はどこだ?」「スウィート・マイ・ホーム」「ジュリエットの亡霊」の三作を収めた連作短篇集.真実は危ういもの,軽率に触れてはいけないものだとする啓介と,それでも真実はひとが前進するために必要なものだという真冬のスタンスの違いがここではっきりと対立することになる.近づいたり離れたりしていたふたりの,「真実」をめぐるあやふやな綱渡りが,ひとつの壁にぶつかった瞬間が見えたという.どちらかというと辛いことのほうが多いけど,なんか目が離せなくなる青春小説.しっかり負い続けたい.