屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.6』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6 (ガガガ文庫)

「お前、自分で自分を下げてるとき――なんか安心したような顔してんだよ」

文化祭を目前に控えた11月.いつものように課題に取り組む友崎は,日南から唐突に質問をされる.「あなたがいま付き合いたいのは、誰?」

文化祭の準備が始まる,冬に差し掛かかりつつある季節.最早リア充と化しつつあるのでは? と思われた友崎の,行動原理の根っこにあるものが改めて描かれる第6巻.自分を高めようとしているときの心の不安定さと,自分で自分を下げているときの安心感.自分を弱キャラとみなしている人間ならではの正直な気持ちにうなずけるところも多い.胃のどこかが刺激された.強引な路線修正をしているようにも見えるのだけど,話が大きく動きそうなラストも気になるところ.引き続き楽しみにしております.

牧野圭祐 『月とライカと吸血姫4』 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (4) (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (4) (ガガガ文庫)

「宇宙に未来を見て、科学に希望を抱く、世界中のみんなの夢を――」

そして、テレビから流れてきたヒット中のラブソングに合わせて、魔法を唱える。

『フライ・ユー・トゥ・ザ・ムーン』

あなたたちを月へ連れて行く。

東の共和国連邦と西の連合王国の宇宙開発競争がますます加熱する1962年.アーナック連合王国の都市マリンシティで「二一世紀博覧会」が開催されることが決定した.テーマは「宇宙時代の人類」.バートとカイエは万博でのカンファレンスに参加することになる.

三巻に続き,西の大国側の視点で冷戦下の宇宙開発競争を描いてゆく.1962年のシアトル万博や,キューバ危機をモデルにした事件をベースに,虚実を入り混ぜた話作りは非常に安定している.アポロ計画を基にした「プロジェクト・ハイペリオン」の方針決定も然り.しかし,元ネタ探しをするにはいいんだけど,話の方は正直安定しすぎてわくわくしない.悪い意味で司馬遼太郎を読んでいるときのような気持ちになった.完全に難癖で申し訳ないんだけど,難しいな.

円居挽 『京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道』 (角川文庫)

京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 (角川文庫)

京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 (角川文庫)

「馬鹿野郎! まだ気がつかねえのか?」

「はあ……」

もしかしてミステリ研ならではの視点で何かに気がついたのだろうか。何にせよ、新発見なら大歓迎だ。

「銀河の叡電だぞ? つまり銀河叡山電鉄、略して銀叡電じゃねえか。それはちょっと出来過ぎだ」

「そっちですか?」

京大の街歩きサークル,賀茂川乱歩の遠近倫人は,片思いの相手である青河幸との距離感の変化に戸惑っていた.京大生たちが乱歩する,「京都ご当地ミステリー」の第二巻.なんというか,今までの作者の作品のなかでもいちばん素直な青春ものの気がする.対人関係に失敗し,ちょっと成長する主人公の姿がものすごく新鮮.もちろんそれだけではないのだけど,作者の恋愛観とか恋愛経験とかを知りたくなるタイプの話でした.そっちにフォーカスしたインタビューはあったかな.


kanadai.hatenablog.jp

大澤めぐみ 『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』 (スニーカー文庫)

君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主 (角川スニーカー文庫)

君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主 (角川スニーカー文庫)

「いいよ」と、アニーは返事をした。「わたしたちは、友達になろう」

「いいね」と、ユージーンは笑った。「あなたとわたしのふたりなら、きっと世界そのものだって変えてしまうことができる」

そのようにして、彼女たちは友達になった。

数百年に渡り続いていた帝国と王国の戦争が終わった.「愛」は世界を救い,誰も虐げられることなく,奪われる心配のない,安心して暮らせる世界を実現した.それから3年.かつて帝国の諜報機関に所属していた「災厄の魔女」ことアンナ=マリアが,式典に参加していた二国の王を暗殺する場面から物語ははじまる.

天才と呼ばれた魔女とその弟の目的は,世界に暮らすすべての“善き人”を殺し,自分の世界を取り戻すこと.3年前と現在を行き来しながら,世界と「災厄の魔女」の変化を描いてゆく.なぜ魔女はたったひとりで平和な,愛に満たされた“善き人”たちの世界に反抗することを選んだのか.3年の時間と,その間に横たわる謎に惹きつけられ,そしてぞっとさせられる.

友人との決別だとか,何をもって自我が連続するとみなすかだとか,世界のアップデートだとか「愛」の正体だとか,物語の切り口はかなり多い.こう言うと嫌がられるかもしれないけど,伊藤計劃以後を総まとめして,ひとつの結末を突きつけられたかのような印象を受けた.読み心地は強烈,頭の中をぐるぐる回る.けっこうな傑作なのではないでしょうか.

一肇 『フェノメノ 陸 美鶴木夜石は微笑まない』 (星海社FICTIONS)

フェノメノ 陸 (星海社FICTIONS)

フェノメノ 陸 (星海社FICTIONS)

怪物――さて、怪物とは何だろう?

火を吐く? 人を喰う? 常人では抗うことも出来ない超常的な力を持つ? まあ、その定義など、人によっていいろいろだろうけれど、ひとつだけ確実に言えることがある。一度、出逢ってしまったが最後、終生その影響下から逃れられないもの――それこそ、ボクは怪物だと思うのだよ。

そういう意味で、ボクが出逢ったものは怪物と言えるだろう。

封印されていた夜石の記憶を取り戻した凪人は,「美鶴木夜石」が恐怖の感情を失った「首吊り館」と呼ばれる山中の廃墟にふたりで向かう.

「ようこそ,こちら側の世界へ」.最後の異界探索を描くシリーズ最終巻.冷たい恐怖と拭いきれない悲しみが静かな余韻を残す.あらすじ的には伝統的なホラーだけど,青春小説との融合によって緩急の利いた物語になっていたと思う.最後まで惹きつけられた.お疲れ様でした.