斜線堂有紀 『私が大好きな小説家を殺すまで』 (メディアワークス文庫)

私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

人気小説家の遥川悠真が突如失踪した.遥川の部屋に残されていたのは,打ち壊された家具の数々と,少女が住んでいたような痕跡,そしてたったひとつのドキュメントのみが保存された一台のノートパソコンだった.

嫌な予感はしていた。この小説を読むことで、きっとこの失踪事件には余計な意味がついてしまう。それでも、読む以外に選択肢が無かった。

少女はなぜ愛する小説家を殺さなければならなかったのか.絶望の淵にいた少女と,才能を失った天才小説家の,奇妙な共生関係は,数年の時間を経て変化していく.小説を愛し,小説に救われ,小説を信じた結果,小説に狂わされ,小説に呪われ,小説に殺される.みたいな.やるせなく,とても怖い小説だと思う.どうすれば破滅が避けられたのかと考えるのもだるくなる,完結した世界があったと思う.良いものでした.

憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった。

私の神様は、ずっと死に損ね続けていたのだ。我ながら、酷いことを思うものだ。けれど、それが私の本当だった。それだけが私の本当だった。

私が犯した罪の話をする為には、やはり六年前から始めなくちゃいけないだろう。あの頃は私も単なる小学生だった。そして、先生は誰よりも美しい小説家だった。

飛浩隆 『零號琴』 (早川書房)

零號琴

零號琴

どうだねトロムボノク君、古今最大級の楽器、五百年ものあいだ姿を消していた想像の楽器が、いよいよひと月後に、秘曲〈零號琴〉を鳴りわたらせる。

誓ってもいいがこんな機会は二度とない。

轍世界で――いや、この宇宙で一度きりしか鳴らない音だ」

特殊楽器技芸士のセルジゥ・トロムボノクと,その相棒で第四種改変態のシェリュバンは,大富豪のパウル・フェアフーフェンの依頼に応じ,惑星〈美縟〉に赴く.その首都である〈磐記〉は,建国五百年を記念した古代楽器〈美玉鐘〉の再建と,全住民が参加する大假面劇の開催を一ヶ月後に控えていた.セルジゥはここで,秘曲〈零號琴〉の演奏に参加することを求められる.

国を啓いたと言い伝えられる秘曲〈零號琴〉が五百年ぶりに鳴り響く夜に,現実と神話の二次創作たる大假面劇がはじまる.プリキュアのようなもの,ゴレンジャーのようなもの,ウルトラマンのようなもの,その他,のようなものたちが「最終回の向こう側」に立ち上がる.各種のアイデアを見せつけては投げ捨てるかのような,おそろしくゴージャスでわちゃわちゃした一大エンターテイメント小説となっております.「飛浩隆16年ぶりの第2長篇」の煽り文句からこういう小説が出てくるのは正直まったく想像できなかった.あとがきで作者自身が言う通り,「新しいもの」はおそらくないのだろうと思うのだけど,600ページがあっという間だった.ただただ楽しゅうございました.

竹内佑 『前略、殺し屋カフェで働くことになりました。』 (ガガガ文庫)

前略、殺し屋カフェで働くことになりました。 (ガガガ文庫)

前略、殺し屋カフェで働くことになりました。 (ガガガ文庫)

「想像してみて。他の喫茶店に行って、常連客と仲良くなるとするわね。すると一人が訊いてくるの。あなたいつも手袋しているわね。外さないの? ってね。そこで私はちょっと困りながらも手袋を外して、こう答えるのよ。なるべく人前では外さないようにしているの。だって恥ずかしいんですもの」

お婆さんは手袋を外した手の平をこちらへ開いて見せる。

両方の手の平の真ん中に、大きな傷跡が一つずつあった。

高校生の迅太は,夜の小金井を散歩しているときに見てはいけない場面を目撃してしまう.殺し屋たちが集まるカフェに連れてこられた迅太は,命乞いとしてカフェのウェイターをすることになる.

期限は一週間.助かるための条件は,時給900円のカフェで300万円を稼ぐこと.殺し屋や何でも屋の集うカフェに軟禁された彼の明日はどっちだ.ノワールなのかなと思って読んでいったら,だんだんと違和感が強くなっていく.というか,登場人物紹介の時点で違和感があるとは思っていたんだよな.仮想通貨やパートナーシップ制度といった現代的なものを取り入れているのはいいと思うんだけど,ストーリー自体は最終的にどっちつかずになってしまった印象.

水沢夢 『俺、ツインテールになります。16』 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (16) (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (16) (ガガガ文庫)

世界をわたる復讐者として生きる決意をしたその時から、もはや自分には人並みの幸せを求める資格などなかった。故郷を守れず絶望したあの日、自分はもう、死んでいた。

この一年間、優しい夢を見続けることができただけ……幸せだったのだ。

属性力を捨てた影響は,トゥアールの生命を知らぬまま削り続けていた.残された時間が短いことを悟ったトゥアールは,ひとつの決断をする.

“ツインテールを愛し、孤独に戦い、運命に翻弄され続けた少女――トゥアールの復讐の旅が、ここに終着を迎える。”.絶望の淵,ピンチをチャンスへと変える,熱いヒーローものの王道が繰り広げられる.そういう話だったっけという気もするし,ギャグは相変わらずなのでくどいしだるいしなので,最後の展開で許せるかどうか,かなあ.シリーズの終わりが見えてからの引き伸ばしが過ぎる気がして,熱すぎる展開にも個人的にはいまいち乗り切れずだった.ここまで来たのであれば,最後まで見守りたいと思います.

谷山走太 『ピンポンラバー2』  (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (2) (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (2) (ガガガ文庫)

もっと強くなりたい。もっと卓球を楽しみたい。

湧き上がる衝動が、身体を前へと突き動かす。

肌の下で血液が脈打っていた。細胞が狂喜している。

そうして脳は急かしてくる。

速く、速く、もっと速く。

学内ランキング一位の男,「業焔の獅子」こと獅子堂煉が海外遠征から卓越学園に帰ってきた.時を同じくして,中国卓球界の新星「夢幻の天女」ことリュウ・メイリンが来日し,卓越学園に短期編入をすることになる.

ランキング一位の帰還と中国のスターの来日で,学園はにわかに騒がしい様相を見せる.青春スポ根卓球小説の第二巻.スポ根ものとして,王道のストーリーだと思う.卓球が何よりも好きで好きで仕方ない「音速の鳥」(ソニックバード)こと主人公と,卓球を続ける理由に葛藤する「氷結の瑠璃姫」ことヒロイン.ほとんどの登場人物に異名と必殺技があるという,少年漫画みたいな最低限のけれん味をまぶしたストーリーテリングが楽しく,それを支える卓球への確かな知識と,なにより愛が眩しい.良いシリーズだと思います.

それにしても,ヒロインがこれほどボコボコにされる小説も珍しい気がする.憧れの存在に無視され,徹底的に叩きのめされ,一度は絶望を味わされながらも,挑戦することを決める.正しく,もうひとりの主人公だったのだと思う.



kanadai.hatenablog.jp