時田唯 『恋敵(ライバル)はお嬢様☆』 (電撃文庫)

恋敵はお嬢様☆ (電撃文庫)

恋敵はお嬢様☆ (電撃文庫)

別にシンクロしてる訳ではない。たぶん、唐沢と俺の思考が無駄に似ているのが原因だ。

そりゃあそうさ。同じ相手に恋してるんだもの。

高校生の朝井正也は,入学の日に出会った同級生高倉いつみに恋をした.勇気を出して告白をしようとする正也だったが,高倉さんの友人で同級生の唐沢鈴に邪魔をされる.清楚なお嬢様で通っていた唐沢もまた高倉さんに恋をし,告白の機会をうかがっていたのだった.

会って間もない同級生と俺とお嬢様の,いびつでうまく噛み合わない三角関係ラブコメ.「お嬢様」として振る舞うことを求められ,知らず自分を抑圧してきた鈴と,そんな彼女の救いだったいつみの関係が尊い.そして,その抑圧を乗り越えたうえで,正々堂々と恋の勝負しようとする正也と鈴が潔くてかっこいい.どことなく「とらドラ!」を思い出させる設定だったけど,違った良さがしっかりある.しばらく前の作品だけど,続きも追いかけようかな.

橘九位 『シス×トラ』 (講談社ラノベ文庫)

シス×トラ (講談社ラノベ文庫)

シス×トラ (講談社ラノベ文庫)

「その子は、クリスの連れ子。名前はリディア・スヴィアインスキー、十歳。そんで、お前の妹だ」

一人暮らしをしていた普通の高校生,久道蘭丸のもとへ,ロシアから考古学者の父が帰ってきた.ロシアで勝手に再婚した父は,再婚相手の連れ子,リディを連れてきた.飛び級で大学を卒業し,七カ国語を操る10歳の天才少女は,蘭丸の生活に波乱をもたらす.

天才少女(妹)と秀才少女(同級生)の間に挟まれる俺.第2回講談社ラノベチャレンジカップ佳作受賞となるラブコメ.ストーリーの薄さをテンション高めのテキストでなんとかしようとしている印象.リディと一妃の関係の変化とか,見るべきところがないわけではないのだけど,正直なところ水増ししている感じが強く,最後まで良い印象が持てなかった.

九岡望 『サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣―』 (電撃文庫)

サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣― (電撃文庫)

サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣― (電撃文庫)

いつ抜いたのか、いつ斬ったのか――最後の納刀に、鍔鳴りが一つ。

刀の柄尻に提げられた鈴が「凛」と唄い、血と桜花と妖刀の夜を締めくくった。

記憶はそこで終わる。

刀を持つ者が力を持つ現代.刀剣管理機構・SEASに所属する刃走の少年,月叢方助は,10年前に自分の命を救った業物・善鬼国綱の持ち主を護衛するよう命じられる.刀の主である季風21代目,季風鳴は,年端もいかない気弱な少女であり,かつての命の恩人の娘であった.

抜刀術と魔剣が激突する.まるで2時間のアクション映画を一気に見たような読み味の,サイバーパンクチックなアクション小説.スピーディな展開とけれん味のあるテキスト,章ごとにさし挟まれるアクションシーンの配分がいかにもそれっぽい.そもそものタイトルや,刃走(=ブレードランナー)からして意識してるんだろうな.エンターテイメント小説の真髄がぎゅっと詰まった,一巻完結小説のお手本のような一冊でした.



モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

林星悟 『人形剣士(ドールブレイブ)は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録』 (MF文庫J)

人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録 (MF文庫J)

人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録 (MF文庫J)

ここまで精巧に人間に似せて人形を作るなど、私が今まで見聞きしてきたこの世のどんな禁術をもってしても不可能。であるならば必然、本物の人間を無理矢理操っているか、少女の遺体を「人形」と言い張っているだけのこと。そのどちらも、筆舌に尽くしがたく人道を外れた、吐き気を催す悪魔の所業だ。許してはおけない。

「人形剣士」の異名を持つ剣士ブレイスは,右手に剣を持ち,左手で操り人形のリネットを操る独自の戦闘スタイルで知られていた.魔導審問会の一等審問官ガルノーは,「攻撃魔法」の使用疑惑があるブレイスを三ヶ月に渡って監視していた.どこからどう見ても人間の少女にしか見えないリネットのことを,ガルノーは端から人形だと信じていなかった.

人形剣士と人形の間にある絆と謎.第14回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作.ライトノベルのファンタジーとしてはオーソドックスなものだと思う.物語設定をシンプルにまとめた導入はわかりやすく,世界に入りやすい.のだけど,キャラクターが悪い意味で漫画的で,物語に対して浮いているというか,かなりくどい.申し訳ないけどうんざりする気持ちが先に来てしまった.

柞刈湯葉 『未来職安』 (双葉社)

未来職安

未来職安

目標に向かって努力できる、というのがずいぶん羨ましく感じる。わたし達の世代は、目標を持つこと自体がずいぶん遠い。

徹底的な自動化と効率化により,99%の「消費者」と1%の「生産者」に分かたれるようになったちょっと未来の社会.すべての国民に生活基本金が支給され,働かなくても生きていけるようになったものの,それでも働きたいという需要は健在.ここにはそんな「消費者」のための,怪しい民間職業安定所がありました.

いざ読んでみたら,「99%の〈消費者〉と1%の〈生産者〉」というキャッチコピーから想像していたのとだいぶ違っていた.脱臭されたいかにもな「近未来感」描写の中から,日本社会の面倒くささとせせこましさが強くにじみ出る.和風「第六ポンプ」というかゆるディストピアというか,強い皮肉と反体制小説みを感じる.『横浜駅SF』をより楽しく,より息苦しくした印象かな.今とは違った需要と供給,悩みがある近未来社会の描写はとても面白いのだけど,身近で想像しやすいぶん,同時にちょっとしんどくなる.個人的には作者の作品でいちばん好きな小説でした.



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