オキシタケヒコ 『筺底のエルピス6 ―四百億の昼と夜―』 (ガガガ文庫)

筺底のエルピス 6 -四百億の昼と夜- (ガガガ文庫 お 5-6)

筺底のエルピス 6 -四百億の昼と夜- (ガガガ文庫 お 5-6)

鬼は人間だけに憑依する。だがそれは、この惑星上の話でしかない。

もし、殺戮因果連鎖憑依体の襲撃が、この宇宙に普遍的に存在する現象だったとしたら。

宇宙から知的生物を滅ぼし尽くすものが、鬼なのだとしたら。



地球外文明の声が決して届かないのは――殺し尽くされているからだとしたら。

《門部》,《ゲオルギウス会》,《I》(ジ・アイ).人類史のはじまりから現在に至るまで,歴史の裏で殺戮因果連鎖憑依体を狩り続けてきた三組織の代表者が集まった.

人類,異星知性体,殺戮因果連鎖憑依体.三者の歴史が語られ,繰り返されてきた捨環戦の末に,人類史の終わりが始まろうとしていた.終わりと始まりの間にある「継続」を描く第六巻.時空が入り組んだ物語の一端が明らかにされ,バトルがないのにこの緊張感よ.なぜ《三》なのかの理屈や,神話やらオカルトやらいろんな方面に広げた風呂敷がどれもこれも楽しすぎる.次も早う,早う.気長に待っております.

総夜ムカイ 『青色ノイズと〈やきもち〉キラーチューン ワケありJKと始める男装V系バンド』 (MF文庫J)

青色ノイズと<やきもち>キラーチューン ワケありJKと始める男装V系バンド (MF文庫J)

青色ノイズと<やきもち>キラーチューン ワケありJKと始める男装V系バンド (MF文庫J)

「魔法? って、それ……ウイッグだよな……?」

化野はちょこんと跳ねた猫耳に手を触れ、頷いた。

「これはボクが――ビジュアル系に生まれ変わる魔法なのさ!」

自分の声にコンプレックスを持つ高校生,大上透.文化祭ライブで大失敗したトラウマを抱えていた彼は,同級生の化野音子にビジュアル系バンドに誘われる.水色のウイッグで男装し,教室での地味な姿とは別人になった化野との出会いが透を変えていく.

理想の自分に生まれ変わる魔法,それはビジュアル系ロックバンド.第14回MF文庫Jライトノベル新人賞審査員特別賞受賞作.デビュー作にこれを言うのはおかしいかもしれないのだけど,ザ・若書きというか,とにかく青臭い.書きたいことがまとめきれていない感じがするし,どのキャラクターを描きたいのかわからない,ポエジーで目が滑る(ライブシーンで顕著)といった欠点も多いのだけど,若さと勢いだけはひたすらに感じた.

あと内容とは関係ないのだけど,あとがきに伏せ字をつけて謝辞を書くのなら,まえがきで「敬愛する西川貴教に捧ぐ」とか載せるくらいやったほうが良かったのではないかな.

小山恭平 『我が姫にささぐダーティープレイ2』 (講談社ラノベ文庫)

我が姫にささぐダーティープレイ2 (講談社ラノベ文庫)

我が姫にささぐダーティープレイ2 (講談社ラノベ文庫)

「人の生に意味はない。だけど人は無意味に耐えられない。だから後付けで意味を与えていくんだよ。この敗北にはこんな意味があったんだ。あいつの死にはあんな意味があったんだ。今この瞬間の悲しみは、俺たちの人生は、無意味なんかじゃなかったんだ――解釈で救われようとしてるわけ。たかだか数十年の矮小なる生をわざわざ意味で重くするために、まー物語ること騙ること。ストーリーを求めること。女々しくって弱々しくて、人々しいことこの上ないよ――ほうら、語るって、この上ないほど弱いでしょう? 無意味を恐れて自分から疲れにいってるんだもん」

執事として仕えるお嬢様,ラライ・アッフィールドを「剣姫祭」で優勝させたカイト.次は,芸麗祭の文芸部門での優勝を目標として,ラライのゴーストライターを探すことにする.白羽の矢が立ったのは,「図書館の嘆き姫」の異名を持つ生徒会書記にして小説家,イヴ・アーティカ.

二巻の根っこにあるのは,凡人が生きるには「物語」が必要という普遍的なテーマ.それに対して語られるのは,転生した異世界で売れっ子小説家の気を惹くにはどんな小説がいいか.俺の答えは本格ミステリや! という.うさんくささと説得力のバランスが絶妙すぎる.免疫のない状態から本格ミステリ漬けにされる(そしてあっさりハマる)お嬢様が不憫でならない.あやしくも楽しい異世界転生小説だと思います.

旭蓑雄 『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。 ~ふふん、私は今日からあなたの恋人ですから……!』 (電撃文庫)

「まさか、サキュバスなんてもんが、本当にいるとは思わなかったよ……」

「ふふん、浅はかなり人間……サキュバスの牙は、現代社会に深く食い込んでいます。それはもう――サーベルタイガーばりの長い牙がね!」

そいつ絶滅してんじゃねえか。

生身の女子に興味のない高校生・ヤスが同人誌即売会で出会った憧れの絵師・ヨミ.彼女の正体はいわゆるサキュバスであった.男が苦手で,イラストを公開して性欲を集めることしかできない落ちこぼれサキュバスのヨミは,三次元にまったく興味のないヤスを利用して一人前のサキュバスになろうと頑張るのであった.

生身に興味のない高校生と男嫌いのサキュバス,出会ってはいけないふたりがいろいろあって仲良く喧嘩する.ストーリーはタイトルに忠実で語るところは少ないけど,ヒロインの夜美がちゃんとかわいいのもタイトルどおり.敬語でドヤ顔だけどポンコツでいつも顔が真っ赤という.似たような話は正直いろいろあるけど,リーダビリティの高さもあってか牧歌的でストレスがない.ドヤ顔かわいいに振り切っていて,楽しゅうございました.しかし振り幅の大きい作家だよ.

瘤久保慎司 『錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」』 (電撃文庫)

錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」 (電撃文庫)

錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」 (電撃文庫)

「おいッ! 後悔すんなよ! 三秒後には、燃えカスかもしれねえぞ!」

「しない! いつ終わっても。君と一緒なら!」

キノコ守りの里が,アポロと名乗る赤髪の男に襲撃された.出会ったものを《都市ビル》へと変化させ,《都市化現象》を引き起こすアポロによって,全日本同時多発都市化テロが引き起こされる.滅亡前,三百年前の姿を取り戻すと同時に,現在の姿を崩壊させようとする日本列島.ビスコとミロは,「現在」を侵食しようとする「過去」と対峙する.

三百年後の世界を《2028年》が侵略する.愛媛から神戸,京都,忌浜へと,日本中で暴れまわるビスコとミロの一大活劇,第一部完! 相変わらず面白かった,と言いたいところだけど,三巻に入っていきなり雑になった印象は強い.詰め込んだアイデアの数々はどれも最高,しかし十全に表現するにはページがぜんぜん足りていない,というかなあ.ここで終わりではないとはいえ,あまりにもったいない.これほどもったいない小説はほかにないと思う.初夏に出るという新章に期待しております.