浅倉秋成 『教室が、ひとりになるまで』 (角川書店)

教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

――私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります。さようなら――

私立北楓高校で生徒の連続自殺が起こった.ひとりがトイレで首を吊り,その後ふたりが立て続けに飛び降り.疑う余地のない自殺だと考えられていた連続自殺だったが,垣内の幼なじみは,三人とも自殺ではなく,学校に人殺しがいるのだと打ち明ける.

クラスの人気者だった彼らは,なぜ同じ文面の遺書を遺して次々と自殺したのか.学校に伝わる《受取人》というシステムを利用した,青春暗黒ミステリ.「最高のクラス」をいっしょに過ごした彼らの間には,決して埋めようのない断絶があった.永遠に理解できない相手が学校の中にも外にもいくらでもいて,同じ空間,時間を過ごさないといけないという煩わしさ.タイトルの意味がわかってから畳み掛けるような絶望感が訪れ,それでも最後にちょっとだけ希望が残る.都合がいいといえばそのとおり,しかし「犯人」サイドの動機や心情が(おそらく被害者側よりも強く)わかってしまうだけに,ラストには救われた.良いものでした.

松山剛 『君死にたもう流星群3』 (MF文庫J)

君死にたもう流星群3 (MF文庫J)

君死にたもう流星群3 (MF文庫J)

「人生が試験であるならば、先輩は地球人口である七十億人、その全員の人生を否定したんです。歴史から抹消したんです。歴史上どんな卑劣な独裁者でもできなかった蛮行を、先輩はやってのけた。七十億人すべての人生を否定した――なきものにした」

真面目な委員長がアイドルを目指しはじめた一方で,もうひとりのタイムリーパーが現れる.正直想像もしていなかった展開に持ち込まれたシリーズ三巻.タイムトラベルに行こうが,異世界に転生しようが,人生は過去の積み重ねであって,本当の意味でやり直すことはできない.そして,人生はいつか必ず終わる.じゃあそこに意味はあるのか? みたいな.ループものの物語において,切り捨てられた時間軸と世界(とヒロイン)はどうなるのか.よくある問題へのひとつの回答を,物理的な力を持つ圧倒的で説得力で描いてゆく.捨環戦で捨てられた側の世界の物語というか.帯に言う「タイムリープの罪と罰」のことをぐるぐる考えてしまった.

昏式龍也 『双血の墓碑銘』 (ガガガ文庫)

双血の墓碑銘 (ガガガ文庫)

双血の墓碑銘 (ガガガ文庫)

凄まじい恐怖が心臓を掴んだ。己の死を意識したときよりも、遥かに強く。

約束を果たせないこと――侍としての生き様を貫けないことへの、激しい恐怖が。

果たして――

火薬の炸裂する轟音と共に、薩摩兵の心臓が血飛沫の薔薇を咲かせていた。

1868年,鳥羽伏見の戦いにて,新選組隊士の柾隼人は命を落とそうとしていた.隼人は人間であることを捨て,戦場で出会った吸血鬼の少女,柩の眷属になる.少女を守るため,復讐のため,ふたりは東へと向かう.

吸血鬼となったワイルド・ビル・ヒコック,鉄腕ゲッツ,ジョン万次郎,沖田総司その他もろもろが幕末日本で大暴れ.吸血種族によって開国させられた日本を舞台にした異能伝奇.テーマは面白いのだけど,話運びは非常に素直.アクションももうひとつけれん味が足りず物足りない.「侍」への強いこだわりと憧れを持つ主人公像は良いので,もっとフォーカスしてくれると個人的には良かったと思う.それにしても,吸血鬼の絡んだ歴史改変ものを読む機会が増えている気がするのだけど,日本でも増えているのかな?

小川一水 『天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART2』 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標? 青葉よ、豊かなれ PART2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標? 青葉よ、豊かなれ PART2 (ハヤカワ文庫JA)

私はこれより、重質量特異点に進入する。

娘よ、私を思え。そして栄えて増えよ。

シリーズ完結篇の中編.オムニフロラは全宇宙を覆わんと拡散し,カルミアンの総女王(スローン)オンネキッツそれを焼き尽くさんと人為的な超新星爆発を起こそうとしていた.メニー・メニー・シープ人,《救世群》(プラクティス),2PAの連合軍はクワガタムシ作戦によってドロテアの中心を目指す.

ついに決着する姉妹の因縁.そして数百年に渡ってヒトに寄り添ってきた《恋人たち》(ラバーズ)が定義する人間像.「ヒトの定義」は物語をめぐる大きなテーマのひとつだけど,ちょっと思ってたのと違う場所に着地しそうだぞ.「混爾(マージ)」ってそういう意味でもあるのか……,みたいな.次はいよいよラスト.ヒトをめぐる大河ドラマの結末を,こちらも気合を入れて臨みたい.

東亮太 『オーク先生のJKハーレムにようこそ!』 (スニーカー文庫)

オーク先生のJKハーレムにようこそ! (角川スニーカー文庫)

オーク先生のJKハーレムにようこそ! (角川スニーカー文庫)

人間の勇者に率いられた「光」と魔王に率いられた「闇」による、激しい戦争。その勝利をつかんだのは、あろうことか闇の方だった。

いや、結果的にはそれでよかったのだろう。闇を滅ぼそうとした人間が破れた後、魔王はすべての光を闇の中に呑み込んだ。……という詩的な表現は分かりづらいから、はっきりと言おう。魔王はあくまで、光の勢力との平和的な共存を望んだのだ。

王立レグド女学園.異種共学校として創立された学園だったが,その理想とは裏腹に,学園は廃校の危機にあった.危機を救うために異世界より召喚されたのは,元人間,現オークの自称完璧教師であった.

オーク,エルフ,ドワーフ,ライカンスロープ,女騎士.現代風ファンタジーのお約束をきれいに消化しつつ,熱血教師ものを器用に語ってゆく.読みやすいしどこを切ってもそつがない.廃校の危機×異世界転生はこうやって描くのだというお手本だと思う.タイトルで損をしている……と言いたいところだけど,嘘ではないのよな.お気楽で楽しゅうございました.