水樹尋 『W.W.W ―ワールド・ワイド・ウォーI―』 (講談社ラノベ文庫)

W.W.W ?ワールド・ワイド・ウォー1? (講談社ラノベ文庫)

W.W.W ?ワールド・ワイド・ウォー1? (講談社ラノベ文庫)

「僕だって凍華がなんて言おうと反対する。それ以上前に進ませたりしない。凍華の願いがどんなものかは知らないけど、そんな願いのためなんかに戦うなんて僕は認めない」

その言葉を発してしまった瞬間――。

場の空気が冷たく凍りついた。彼女は目の色を変える。

「そんな願いのためなんか……ですって……!?」

ワールド・ワイド・ウォー.特別な力を与えられた参加者たちが命をかけて殺し合い,優勝した者はどんな願いでも叶えられるというネット上の都市伝説.幼なじみの愛奈との学校帰りで,高校生の蓮也はワールド・ワイド・ウォーに巻き込まれる.

ひとつの街を舞台にしたバトルロイヤルのはじまり.正義感が強く視野が狭い主人公にまったく共感ができなくてつらかった.『Fate/stay night』における士郎を再演しているような……というか舞台然りバトルロイヤル然り,全体的にFateに似てるところが多いのかな.テキストは説明調が強すぎるし,話に集中するのが非常に難しかった.

伊瀬ネキセ 『封印少女と復讐者の運命式』 (ダッシュエックス文庫)

封印少女と復讐者の運命式 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

封印少女と復讐者の運命式 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

目覚めが快適だったことは一度もない。

いつだってそこから怒りと憎悪が始まる。

何年も何年も飽くことも慣れることもなく続いていた。

超巨大構造体〈エデン〉.破壊不能なこの迷宮の中で,いつからか人々は生まれ死んでいくようになっていた.己の復讐を果たすため,〈エデン〉の中をさすらっていた青年ノオトは,絶対に出会ってはいけないと伝えられる“封印少女”イドアリスに遭遇する.

第3回集英社ライトノベル新人賞優秀賞受賞.何者が造ったかもわからない,巨大構造物に封じ込められた文明の中で描かれる復讐者と復讐者の物語.舞台のスケールは意外と大きく,SFによくある題材でもある.後に「HELLO WORLD if」を書くことになるのもうなずける.

視点はあくまで登場人物たちにとどまったミクロなものではあるのだけど,「天使」を自称するぼんやりヒロインイドアリスを始めキャラクターは魅力的.緊張感の絶えないストーリーも悪くない.「HELLO WORLD if」がとても良かったので(積読から)手に取ったわけですが,期待通りでした.



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水沢夢 『俺、ツインテールになります。18』 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (18) (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (18) (ガガガ文庫)

恨み言なら受け慣れた。お前はそう言っていたよな、ドラグギルディ。

俺たちもそうなるだろうぜ。今だけは……幸せな時間を、奪う側になるんだから――。

アルティメギル基地への転送手段を手に入れたツインテイルズ.侵攻される側から,侵攻する側へと,いよいよ最後の決戦に挑む.そんななか,愛香はある行動に出る.

とうとう最終決戦へと突入する18巻.奪われる側から奪う側へと転じる,最終決戦のお約束が続々と描かれる.やっとここまで来たか……という感慨と疲労感.次でようやく完結なのかな.

伊瀬ネキセ 『HELLO WORLD if ―勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―』 (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

「怖がらなくても大丈夫。根源が情報であれ血肉であれ、その都度思考して変化を生み出していくものを、わたしは単なる記録とは思わない。数字は自然のもので、アルタラが記憶しているものが数値なら、やはりあなたも自然の存在なの。ただほんの少し、在り方が違うだけ」

中学校の卒業間際.誰にも知られないまま失恋した勘解由小路三鈴は,変わりたいと強く願うようになっていた.そんなある日,ひとりの女性が三鈴の前に現れる.彼女は勘解由小路ミスズ.20年後の未来からやってきた三鈴本人だと言う.

野崎まど原作『HELLO WORLD』の,あり得たもうひとつの物語を描くスピンオフ小説.堅書直実と一行瑠璃.大切な友人であり,憧れのひとであるふたりの恋を,未来からやってきた自分とともに密かに応援するうちに,三鈴の心境は変化していく.本編のSF好きな高校生男子が,この世界がイーガンであると理解したのに対して,こちらの中学生女子はこの出来事が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなものだと理解する.物語の色というか,明確な対比が出ている導入がうまい.

グレッグ・イーガンをモチーフにしたであろう原作を下敷きにして,この上なくまっすぐな「if」の物語を描いていると思う.それは世界の在り方だったり,本編のふたりの別の一面であったり,本編ではあまり語られなかった三鈴という少女に起こり得た「“誠実な失恋”」である.「世界で最初の失恋」というサブタイトルの意味がわかった時には素直に感動した.ある部分では原作よりも好きかもしれない.堀口悠紀子の繊細なイラストもとても良い.こちらも何らかの形で映像化されるといいな.



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水沢夢 『SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1 ~もう一人の神~』 (小学館)

SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1: ~もう一人の神~ (ガガガブックス)

SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS Vol.1: ~もう一人の神~ (ガガガブックス)

「変わってないよ」

裕太の呟きからかなり間を置いて、怪獣少女はそう言った。

「この世界は何も変わっていない。ただ、可能性がいっこ増えただけなんだ」

学園祭に現れた怪獣メカグールギラスを退けたグリッドマン同盟.その翌日,学園祭の片付けのために登校した一行が教室に行くと,そこにいたのは黒髪になった新条アカネだった.

記憶を失い,もう一度繰り返されるグリッドマンとの出会いと戦い,そして黒い新条アカネ.アニメ8話と9話の間にあったかもしれない,もうひとつの可能性を描いたオリジナルストーリー.こまごまと振り返りが入るけど,基本的にはアニメを全部観たひと向けのノベライズなのかな.新怪獣(覆水不返怪獣ガイヤロス)登場もありつつ,手堅くまとめていると思う.ギミックが無難すぎる気もするけど,それがわかるのは次以降かな.