大泉貴 『ダンジョン・ザ・ステーション』 (LINE文庫エッジ)

ダンジョン・ザ・ステーション (LINE文庫エッジ)

ダンジョン・ザ・ステーション (LINE文庫エッジ)

「ユウはただ空想しただけ。語っただけ。物語に罪はない」

迷宮主(イニシエーター)を名乗る謎の人物によって,新宿駅は駅員(ガーディアン)と呼ばれるようになる怪物が徘徊する巨大なダンジョンへと変貌した.それから三年.政府によって制定された探索員制度を受けた探索者たちは今日も新宿駅に挑んでいた.

現実と物語と異世界が交錯する場所,新宿駅.行方知れずになった妹を探して,ひとりの少年がダンジョンに降り立った.シンプルでわかりやすい小説だと思うのだけど,根っこにあるものは熱い.ストーリーテリングは淡々としているので,その熱いものが良くも悪くも表に出てこないのと,物語のスケールを感じにくい,というところはあるのかなあ.

宮内悠介 『スペース金融道』 (河出書房新社)

スペース金融道

スペース金融道

「金融商品のモデル化にあたっておれたちが前提としたのは、価格の変動を運動量として見たとき、それが光に比べて非常に遅いということだ。実際の人間の取引においては、それで問題ない。だが、秒あたりの取引回数が無尽蔵に増えた場合――価格の変動が限りなく光速に近づいたとき、量子金融工学はアインシュタインの相対性理論の影響を受ける

人類がはじめて移住に成功した太陽系外惑星,二番街.新星金融二番街支社に勤務するぼくは,上司のユーセフに連れられて,債権回収のため宇宙中を飛び回っていた.

「スペース金融道」「スペース地獄篇」「スペース蜃気楼」「スペース珊瑚礁」「スペース決算期」の5篇を収録した,宇宙を股にかける金融SF短編集.量子金融工学だったり,アンドロイドの借金だったりといった最新のアイデアと奇想の数々を,どこか懐かしいドタバタとともに読ませてくれる.楽しかった.

松屋大好 『無双航路 2 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 (レジェンドノベルス)

無双航路 2 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

無双航路 2 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

「いいえ、ここにいるのは、記憶にすぎません。以前のわたしと同じように考え、同じようにはなしますが、わたしではないのです。わたしのクオリアは、もうないのです。いまのわたしは魂のないAIと同じ。皮肉ですね。あなたは肉体はないけれど魂がある。いまのわたしは、肉体はあれど魂がないのです」

連合艦隊に進攻した帝国皇女ソハイーラ.捕虜になっていたおじにして前皇帝・ガルバを期せずして救出したことにより,皇位継承と指揮系統をめぐる意図しない緊張状態が発生する.混乱の中に現れた連合の超大型戦艦のたった一隻に,帝国艦隊は追い詰められようとしていた.

数万年前に誕生した王政ローマは宇宙で戦乱の中にいた.「人間」であり「AI」でもあるアサガヤシンは戦場を駆ける.相変わらず「無双」からは程遠い,ハードでシビアなスペースオペラ.わざとらしいほどオールドスクールなスペオペと,現代的な意味での転生もの,及びSFの幸せな融合であり,昇華であり.お約束を外してくるストーリーの手綱取りが見事だと思う.

連合艦隊が繰り出した,AI規範を破る禁じ手とは.聖櫃の中にある,時間の止まった仮想世界の三鷹に現れる宇宙戦艦.“月”と呼ばれる巨大な人工知能.AI規範に縛られたAIと,肉体に縛られた人間,そのどちらでもないアサガヤシン.目まぐるしいガジェットの数々から,和風ニュー・スペースオペラというか,ハンヌ・ライアニエミを日本人が書くとこうなるのだ,みたいな印象を受けた.楽しかったです.すでに三巻もあるので近いうちに読みます.

旭蓑雄 『シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!』 (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの! (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの! (電撃文庫)

「労働をおぞましいとは何です。勤労は国民の義務として、日本国憲法にも記載されているほどなんですよ。労働を馬鹿にすることは、巨視的に見れば日本を馬鹿にしているのと同じこと。反省してください」

ブラック企業勤務の三年目,堂道.働くことに至上の喜びを見出すワーカホリックの隣に,ある日引っ越してきたシノさんは,なぜか堂道を甘やかすことに必死なようだった.

ひとつ屋根の下.とにかく仕事がしたい社畜と,甘やかしたい堕落させたい○○のラブコメディ.「はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。」の社会人バージョンというかな.基本的には同じ話と言ってもいいのではないかと思う.しかし,働くことが大好き! という堂道の心情に共感することが難しい.話の流れの不自然さというか気持ち悪さというか,文章とは別の部分で変な読みにくさがあった.



kanadai.hatenablog.jp

はむばね 『ブチ切れ勇者の世界征服①』 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

ブチ切れ勇者の世界征服 1 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

ブチ切れ勇者の世界征服 1 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

「俺はもう、救世主じゃない。世界の敵だ」

優武は笑みを深める。

「そして君もまだ救世主とは言えない。力無き意思は往々にして無意味だ。事実、今戦えば武器を持っている君は丸腰の俺相手に触れることすらなく倒される」

高校生の須藤優武は異世界を救う勇者として召喚された.実に一ヶ月ぶり,二十七回目の召喚であった.須藤優武は受験生である.こんなお手軽に召喚されては受験勉強もままならぬと激怒した優武は,こんな異世界は征服してしまえと,誕生して間もない魔王に協力を願い出るのだった.

世界を26度救った勇者,27度目にして世界を滅ぼしにかかるの巻.人類の攻勢によって弱小勢力になった,誕生したばかりの幼女魔王の勢力を,救世主が守り立ててゆく.「ブチ切れ」と言いつつそれなりに冷静だし,実は「世界征服」が最終目標ではないのがミソかな.異世界で無双する小説ではあるけれど,落ち着いて読める話ではないかと思う.