槙岡きあん 『オーディナリー・ワールド』 (スーパーダッシュ文庫)

オーディナリー・ワールド (SD名作セレクション(テキスト版))

オーディナリー・ワールド (SD名作セレクション(テキスト版))

「私、栃木県民とだけは仲良くしないことにしているの。だって栃木って餃子を主食にしている日本一のカッペ魔境じゃん。そんな田舎者と一緒に行動していたら、私の華々しい東京デビューの足枷になっちゃうでしょう」

蕪木大空夢は餃子をこよなく愛する栃木県民.中学を卒業し,東京の高校に進学することになった大空夢は,おばさんの所有する品川のタワーマンションで,遠い親戚で同級生の猫屋敷うらみと同居することになる.

栃木県民と群馬県民がバチバチしたり,ラブラブしたりする.ドタバタでコメディ成分強めのラブコメ,でいいんだろうか.あらすじを読んでなかったのでこんな変な話だとは思わなかった.何が「オーディナリー・ワールド」だ,みたいな心持ちで読むことになる.シリーズの一巻でやることではないと思うけど,導入部のわけがわからないテンポ感は唯一無二.嫌いではない.変なものが読みたいのであればいいのではないかと思います.

ツカサ 『明日の世界で星は煌めく』 (ガガガ文庫)

明日の世界で星は煌めく (ガガガ文庫)

明日の世界で星は煌めく (ガガガ文庫)

世界が終わってしまいました。

まあ今日も変わらず空は青いし、かわいい形の雲は浮いているし、あったかさと冷たさが混じった五月の風は気持ちよくて、河川敷に咲く野花は綺麗なんだけど。

でもやっぱりこの街は――私の大嫌いな世界は、もう死んでしまったんだと思います。

世界が屍人で溢れて一ヶ月.「魔女」こと南戸由貴は,父の遺したペンギンのペラと,生者のいなくなった街でサバイバルな生活を送っていた.そんな春先のある日,街に鳴り響く銃声.そこで由貴はかつて一週間だけいっしょに過ごした生涯唯一の友達,榊帆乃夏と再会する.

終わってしまった世界をふたりは旅をする.ゾンビアポカリプスな世界,旅するふたりきりの少女,ちょっとだけ屋外キャンプあり.現在の流行をすべて詰め込んだような印象を感じる.世界設定の説明とプロローグに一冊まるごとをかけた感じで,雰囲気は十分に感じられるのだけど,今のところは雰囲気だけの小説とも言える.次以降でどうなるかな.楽しみにしてます.

九岡望 『地獄に祈れ。天に堕ちろ。』 (電撃文庫)

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

  • 作者:九岡 望
  • 発売日: 2019/11/09
  • メディア: 文庫

ここは日本、幽離(かくり)都市「東凶屠(とうきょうと)」。

死神・御殺(みそぎ)十三は天から降るでも影から湧くでもなく、この街で普通に仕事をしている。

好きなものはカネ、嫌いなものは聖職者。飯の種は地上をそぞろ歩く犯罪者どもで、中でもとびきりイキのいい死者を探している。

霊破(れいわ)十一年、死者が地上をうろつくようになって、もう十年になる。

世界有数の危険地帯となった東凶.幽体麻薬の製造元を求めて,英国からはるばるやってきた聖職者フィリスと元大量殺人鬼アッシュの姉弟.ふたりを迎えるのは,十年にわたって借金を返し続ける不死の取立屋,死神ミソギ.

亡者たちの街と化した東京を,死神と聖職者のデコボココンビが,銃と薬と死者と悪魔と天使とともに駆け抜ける.一冊完結だからこその,起承転結のメリハリが効いた底抜けエンターテインメントアクション超大作.やりたいことを過不足なく詰め込んだ,この作家らしさが凝縮された作品になっていると思う.なによりシンプルにかっこいいし,楽しい.良いものでした.

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.8』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.8 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.8 (ガガガ文庫)

ということで俺は今日の初詣でお願いしたことを、そのまま伝えることにした。

「俺は……『努力したぶんだけ結果が返ってきますように』、って」

友崎が菊池さんと付き合い始めてから年が明けて,二年生の三学期.そろそろ進路のことを考える時期.リア充になるための課題をこなしつつ,友崎は自分が本当に「やりたいこと」を考える.

新しい出会いと見え始めた未来,その陰に漂い始める不穏な空気.「新章」こと友崎くんe-Sports編開幕の第八巻.人生はゲーム,だからこそ本気で取り組む価値がある,という価値観をはっきり打ち出したのは好きなんだけど,ストーリーはまったく想像してなかった方向に進みはじめた.マクガフィンだと思っていたアタファミが,こんな意味を持ってくるとは思わなかったし,正直かなり困惑しているぞ.どういうふうに話を運んで,どこに着地させるのかまた想像できなくなったのはいいこと,なんだろうか.行く末を見守りたいと思います.

松屋大好 『無双航路 3 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 (レジェンドノベルス)

「お姉ちゃん! 助けて!」

「ごめんね。ごめんねトゥリヌス」ソハイーラが顔を覆った。本質的には何も“感じて”おらず、プログラム的な反応にすぎないとわかっていても、心に来るものがあった。

質量弾が命中した。

クオリアの消えたソハイーラの身体に入り,皇帝として振る舞うことになったアサガヤシン.ローマ帝国を乗っ取ったオクタヴィアヌスと対峙するアサガヤシンに,帝国と敵対する連合の法王インノケンティウスが接触してくる.

巨大AIである“月”を従えた帝国に立ち向かうのは,AIであり人間であるアサガヤシン.転生もの×スペースオペラ第三巻.明言はされていないけどお話的には一区切りなのかな.最後まで「無双」からは程遠かった.

高次元に存在し,すべての人類が繋がっているという「クオリアワールド」.聖櫃の中にある地球.作中における転生のメカニズムは「筐底のエルピス」と共通したところもあるのかな.スペオペならではの,文字通り次元の異なる解決法には眼を見張った.タイトルをきれいに回収するエピローグもとても良いし,アイデアの数々は本当に読むところが多い.都合のいい展開もそれなりにあるけど,大時代的なところにも敬意を払いつつ,スマートなアップデートに成功した,とてもよいSFだと思う.読者を選ぶであろうテーマとタイトルに食わず嫌いをしないで,初心者もうるさいひとも,騙されたと思って読んでみるといい.楽しかったです.