秀章 『ヤンキーやめろ。メイドにしてやる』 (講談社ラノベ文庫)

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

  • 作者:秀章
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

「一人で生きることだけが自立じゃない」

久世太一郎は代々執事を務める家系の生まれ.現在は日本有数の名家・鶴ヶ島家の次女,麻白に仕えている.ある日新たな専属メイドを雇うようにお嬢様に指示されていた太一郎.街なかで喧嘩をしていたヤンキーの朱雀井ハナを助け,成り行きからメイドにスカウトする.

プリン頭のヤンキー娘,渡世の義理によって世界一のメイドを目指すの巻.父親が失踪してグレてるけど昔気質で義理堅いヤンキー娘.Sっ気があるけど有能で懐の深さが見えるお嬢様.ふたりを信じつつ見守る執事.三人の関係と成長を描くラブコメ.

なぜヤンキーがメイドに向いているのかだとか,ハナの持つメイドの素質と挫折,成長だとか,それぞれに芽生えてゆく信頼関係だとか.派手さはないけど,着実に堅実に筋道立ててキャラクターを描いている.過去の作品から一貫した作者の姿勢が垣間見え,相変わらずとても好感が持てる.200ページほどの短い,なんてことない話ではあるのだけど,そんなわけで安心して楽しめました.

二語十 『探偵はもう、死んでいる。2』 (MF文庫J)

探偵はもう、死んでいる。2 (MF文庫J)

探偵はもう、死んでいる。2 (MF文庫J)

  • 作者:二語十
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫

それは決して折れることのない、信念にも等しい巨悪と呼ぶべき何かだった。

「いいよ」

そして、そんな世界の敵に立ち向かえるのはこの名探偵をおいて他にはいない。

シエスタは長銃を構えてその宣戦布告を受け入れる。

君塚たちの前に現れた,映像のシエスタは告げる.「どうか見届けてほしい。私の死の真相を。そして、私が挑んだ最後の戦いを――」.

名探偵と助手の三年に至る戦いとイチャイチャ,そして別れ.これは,探偵がまだ死んでいなかった頃の一幕.特撮ヒーローものの劇場版,もしくはエピソードゼロに甘々なシロップを塗りたくったような話であった.悪の女幹部が登場したり,巨悪の組織が中学校の文化祭を狙うあたり,完全に仮面ライダーを狙ったノリなのではなかろうか.「《SPES》(スペース)の仕業だ!」みたいな.

二巻にして早くも世界の敵《SPES》の正体と目的,そして名探偵の死の真相とその後が明らかにされる.のだけど,あまりにストレートなイチャイチャっぷりと,風呂敷の広げ方がなかなか凄まじくてびっくりした.これほど「なんでもあり」という言葉がぴったりくる展開はそうそうないと思うぞ.この時点でここまでやってしまったのであれば,三巻以降は本当にどんなストーリーにでもできそう.ホラーミステリでも侵略SFでも,新本格ミステリでも学園ラブコメでも.すべてを包摂しているし,どの可能性もある.引き続き行く末を見守っております.



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落葉沙夢 『―異能―』 (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

  • 作者:落葉沙夢
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫

「君は……すまない、覚えていないのだが、誰だったかな?」

「こんな場面で登場するのはいつだって主人公に決まっているだろ」

凡庸な自分を受け入れつつ生きてきた平凡な高校生,大迫祐樹.彼の前にある日見知らぬ少年が現れ,「異能」を持つ者たちのバトルロイヤルへと誘ってくる.「特別な存在」になりたいと望む祐樹はバトルロイヤルへの参加を決意する.

それぞれの願いをかけて,十三人の異能者によるバトルロイヤルが始まる.第15回MF文庫Jライトノベル新人賞審査員特別賞受賞の「事件的怪作」.異能力者のバトルロイヤルものとして読むと普通,というかかなり硬い印象なんだけど,実はミステリ的な仕掛けが隠されていた,という.語り手(異能者)が次々と死んでは移り替わっていくこと,そして「主人公」というキーワード,それぞれに意味を持たせている.読みやすい話だとは正直思わないのだけど,意欲的な試みは買える.いかにも新人賞らしい作品だと思いました.

真野真央 『七人の魔女と灰被りの空の御剣者』 (MF文庫J)

七人の魔女と灰被りの空の御剣者<レガトゥス> (MF文庫J)

七人の魔女と灰被りの空の御剣者<レガトゥス> (MF文庫J)

  • 作者:真野真央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: Kindle版

これが、色彩の魔女による魔法と魔法の攻防戦。

視界に存在するものをいかにして自分の色に染めるか。そこが、魔女同士の戦いにおいて重点を置くべきポイントなのだと理解する。

〈灰色の魔女〉が告げる.「――たった今、世界から“色”が消失しました」.色彩を司る六人の魔女の争いによって,世界から色が消失して六年.極彩省討伐局に務めるアイズ・グレイアッシュは,色霊討伐に向かった森の中で鮮やかな「赤の魔女」に出会う.

灰色一色となった世界を舞台にしたファンタジー.失った「色」と消えた少女を取り戻したいと願う主人公はヒロイックだし,二代目「赤の魔女」との出会いはボーイ・ミーツ・ガールのお約束.記号的な固有名詞が多く,七人の魔女の話ということで,ファンタジーというよりはおとぎ話(揶揄するわけではなく)を意図する面が強いのかな.

「赤の魔女」対「緑の魔女」をはじめ,テーマが「色」なので色の描写は鮮やか.なんだけど,ちょくちょく甘いところもある(色が消えて6年経ったのに,7歳くらいの女の子が色を知ってるか? とか)のは気になった.ラストはすごく気を持たせる終わり方をしているんだけど,続きが出る気配がないのがつらいね……

芹沢政信 『絶対小説』 (講談社タイガ)

絶対小説 (講談社タイガ)

絶対小説 (講談社タイガ)

  • 作者:芹沢 政信
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 文庫

では幸福を得るために、君は何をするべきだろう?

読むのではなく、書きなさい。

現世から受けた折檻によって醜く腫れあがった己が心を癒やすために、ただひたすらに物語を紡ぎ、目に見える世界を虚構の色に染めあげるのだ。

文字の羅列に魂を売り渡し、佇立する肉体を記述せよ。

それこそが真なる幸福にいたる唯一の道。

百年前の文豪,欧山概念の未完の遺作〈絶対小説〉.それを手にした者は,欧山の文才が与えられるという.ライトノベル作家の兎谷三為にそんな話をした先輩は,原稿とともに失踪してしまう.

プロ作家の再デビューを支援するために創設された,第1回講談社NOVEL DAYSリデビュー小説賞受賞作.伝説の文豪の遺作と,「創作という永遠の呪い」をめぐる,あるライトノベル作家の冒険.失踪した先輩の妹をパートナーに,河童の集落に流れ着き,闇の出版業界人の巣窟である講談社に囚われ,欧山と神と崇めるカルト集団の島に拉致される.読みながら『二流小説家』と『Xと云う患者 龍之介幻想』を連想した.

幻想,奇想と言っていい類のアイデアだと思うんだけど,奇想小説らしからぬ朴訥とした文章や,淡々とした展開が妙におかしい.最初はミスマッチな印象が強いけど,だんだんと癖になってくる.再デビューという経緯があればこそ生まれた,不思議な巡り合わせの物語だと思う.読み終わる頃にはとても好きになっていました.

ちなみに一度目のデビュー作の感想はこちらから.

kanadai.hatenablog.jp