旭蓑雄 『シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!②』 (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!(2) (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!(2) (電撃文庫)

  • 作者:旭 蓑雄
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: 文庫

「ユニコーンって呼ばれてる天使よ。人に純潔でいるように求める、はた迷惑なやつら。でも自分たちも異性恋愛禁止だから、こじらせきったやつが多いのよ」

「……天使なのに?」

「そう。異性愛がダメでも、同性愛ならオッケー! みたいな」

「……なんか、いままで抱いていた天使のイメージと違いますね」

怠惰の悪魔シノは,社畜リーマン拓務を堕落させるべく,引き続き頑張っていた.ある日アパートの隣の部屋に,全体的に白いひとが引っ越してきた.勤労の天使,ルルと名乗る白いひとは,自分を甘やかしてくれる者を求めていた.

勤労上等の社畜と怠惰の悪魔の同居生活に天使勢が乱入する第二巻.生真面目で甘やかしたい堕落の悪魔と,動くことさえ面倒くさいニートな勤労の天使が出会ってしまう.星新一の「平和の神」をベタ甘なラブコメにしたみたいな話.プラトニックの縁でラブラブしているふたりの様を眺めたり,夢見りあむみたいな天使が気持ち悪かったりする様をただただストレスなく読むといい.ひたすらラブラブでした.



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小山恭平 『渋谷隔絶 東京クロノス』 (講談社タイガ)

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

  • 作者:小山恭平
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: Kindle版

「いつから自分が人殺しになっていたのかわからなくて悩んでる? あの時だよ、才。義侠心にかられ、僕への協力を自ら申し出た瞬間から才は地獄に落ち始めていたんだよ。義侠心と愛国心を抱いてしまった人間からは、正常な判断力が消えていく。倫理を溶かす劇薬なんだ、あれは」

渋谷を地盤に,代々政治家を輩出してきた神谷一族は,巨大な鏡の壁に囲われた無人の渋谷に囚われていた.ここから生きて出る方法は,週に一度行われる「剪定選挙」で,最後の一人になること.

最愛のひとを守るため,あなたは誰を殺しますか? 隔絶された渋谷の街で,政治家一族の「剪定選挙」が始まる.PS4用VRゲーム『東京クロノス』のシナリオライター自らの手によるスピンオフ,あるいは前日譚.弱者を切り捨てることをよしとしてきた神谷一族を嫌悪し,神谷を変えたいと願う10歳の次期当主の物語.これぞデスゲーム! といった露悪的な語りがとても楽しい.

自分が嫌悪してきた人間が何を考えていたのか,そして信じていた,敬愛していた人間が何を考えていたのか.10歳の少年が直面するにはあまりにもあんまりな事実と裏切りの数々と,とてもトンチキで悪趣味極まる世界の有り様に変な笑いが出た.生き延びた少年がどうなるのか,興味がつきない(PSVRは持ってないですが……).ともあれ良いものでした.

五月什一 『ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者』 (MF文庫J)

ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者 (MF文庫J)

ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者 (MF文庫J)

  • 作者:五月 什一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: 文庫

「ゲームは全てルールという約束事に基づいて成立しているから。約束を破るということはその大前提に反するということ。だからゲームを生業とするギャンブラーはせめて自分のした約束ぐらいは守らなくてはならない」

「忘れるなよ、サキト。約束は絶対に守れ」

裏世界で伝説の賭博師と呼ばれた祖父を持つ高校生,上蔀遡人.スマホのオンラインカジノを趣味に遊ぶ普通の高校生だったサキトの前に,ある日エレーナと名乗る謎の美少女が現れる.エレーナの招待状に誘われ,裏カジノへ赴いたサキトは,そこであっさりと賞金の一億円を手に入れる.それがすべての始まりだった.

第15回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞.余命わずかな少女を救うため,そしてギャンブラーとして「約束」を果たすために少年は裏の世界でギャンブルに挑む.タイトルでてっきりゲーム小説だと思ったらカジノ小説,あるいはギャンブル小説だったでござる.展開が非常にスピーディーで,一本のエンターテイメント映画のように最後までスピードが落ちない.ゲームに勝つことで結果的に相手を殺してしまったことと,ギャンブラーの矜持として「約束」を大切にすることの整合性がわかりにくい(うまく消化しきれてない気がする)だとか,見ていくと粗もかなり多い方だと思うんだけど,勢いがあって読まされた.

秀章 『ヤンキーやめろ。メイドにしてやる』 (講談社ラノベ文庫)

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

ヤンキーやめろ。メイドにしてやる (講談社ラノベ文庫)

  • 作者:秀章
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

「一人で生きることだけが自立じゃない」

久世太一郎は代々執事を務める家系の生まれ.現在は日本有数の名家・鶴ヶ島家の次女,麻白に仕えている.ある日新たな専属メイドを雇うようにお嬢様に指示されていた太一郎.街なかで喧嘩をしていたヤンキーの朱雀井ハナを助け,成り行きからメイドにスカウトする.

プリン頭のヤンキー娘,渡世の義理によって世界一のメイドを目指すの巻.父親が失踪してグレてるけど昔気質で義理堅いヤンキー娘.Sっ気があるけど有能で懐の深さが見えるお嬢様.ふたりを信じつつ見守る執事.三人の関係と成長を描くラブコメ.

なぜヤンキーがメイドに向いているのかだとか,ハナの持つメイドの素質と挫折,成長だとか,それぞれに芽生えてゆく信頼関係だとか.派手さはないけど,着実に堅実に筋道立ててキャラクターを描いている.過去の作品から一貫した作者の姿勢が垣間見え,相変わらずとても好感が持てる.200ページほどの短い,なんてことない話ではあるのだけど,そんなわけで安心して楽しめました.

二語十 『探偵はもう、死んでいる。2』 (MF文庫J)

探偵はもう、死んでいる。2 (MF文庫J)

探偵はもう、死んでいる。2 (MF文庫J)

  • 作者:二語十
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫

それは決して折れることのない、信念にも等しい巨悪と呼ぶべき何かだった。

「いいよ」

そして、そんな世界の敵に立ち向かえるのはこの名探偵をおいて他にはいない。

シエスタは長銃を構えてその宣戦布告を受け入れる。

君塚たちの前に現れた,映像のシエスタは告げる.「どうか見届けてほしい。私の死の真相を。そして、私が挑んだ最後の戦いを――」.

名探偵と助手の三年に至る戦いとイチャイチャ,そして別れ.これは,探偵がまだ死んでいなかった頃の一幕.特撮ヒーローものの劇場版,もしくはエピソードゼロに甘々なシロップを塗りたくったような話であった.悪の女幹部が登場したり,巨悪の組織が中学校の文化祭を狙うあたり,完全に仮面ライダーを狙ったノリなのではなかろうか.「《SPES》(スペース)の仕業だ!」みたいな.

二巻にして早くも世界の敵《SPES》の正体と目的,そして名探偵の死の真相とその後が明らかにされる.のだけど,あまりにストレートなイチャイチャっぷりと,風呂敷の広げ方がなかなか凄まじくてびっくりした.これほど「なんでもあり」という言葉がぴったりくる展開はそうそうないと思うぞ.この時点でここまでやってしまったのであれば,三巻以降は本当にどんなストーリーにでもできそう.ホラーミステリでも侵略SFでも,新本格ミステリでも学園ラブコメでも.すべてを包摂しているし,どの可能性もある.引き続き行く末を見守っております.



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