鶏卵うどん 『かまわれたがりの春霞さん2 隣のクラスのギャルは俺に嘘を暴かれたい』 (MF文庫J)

《うひゃあ、なんかチョロすぎマス! 誠斗さん、ホントに彼女でいいんデスか?》

(もちろん、この素直(チョロ)さが俺の大好物なんだ!)

嘘つき悪魔のデビが去ってから一ヶ月。「本心からの言葉を春霞に信じてもらえなくなる」ペナルティの影響で、春霞への誠斗の本気の告白が届かずにいた。ペナルティを解除する方法は、嘘暴きポイントを貯めること。

UAP(ウソアバキポイント)を稼ぐため、隣のクラスの金髪ギャルが抱えた嘘を暴け。金髪ギャルになってしまった櫟原みらのの嘘、生徒会選挙の裏にあるいくつもの嘘。正直なところ、こういう類の「秘密」はあまり好きではないのだけど、単なるネタとして消費しないよう、かなり気を配って話を作っているように見える(作者も悩んだようだ)。それが功を奏したのか、話の運び方が一巻と比べてもとても良くなっていると感じた(話の導入が微妙なところは変わっていないんだけど)。ネタの詰め込み方も良いし、演技について持論を語る春霞だとか、ようやくキャラクターも生きてきたところ。仕方ないんだろうけど、これで終わってしまうのがもったいない。次が出るのを楽しみにしています。

富良野馨 『真夜中のすべての光』 (講談社タイガ)

真夜中のすべての光 上 (講談社タイガ)

真夜中のすべての光 上 (講談社タイガ)

  • 作者:富良野馨
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: Kindle版
真夜中のすべての光 下 (講談社タイガ)

真夜中のすべての光 下 (講談社タイガ)

「教わって、美味しくて、好きに」

そして小さく呟くように繰り返すのに、大きくうなずき返す。

「そう。教わって、美味しくて、好きになったんだ」

君と同じに、そう続けたいのをあえて呑み込む。

「設定」だから好きになった、でもそれは「もともと自分は知らなかったことを教えられて好きになった」のとそんなに違いがあるだろうか。

最愛の妻、皐月を27歳で失い、失意のどん底にいた彰は、たまたま街で見かけた仮想都市アトラクション『パンドラ』に参加することにする。それはふたりが学生だった7年前、愛する人とともに参加した仮想都市開発プロジェクトの発展型だった。

人生のすべてだった女性を失った男は、ともに過ごした仮想都市のなかに昔の妻を探し求めるうちに、『パンドラ』をめぐる大きな疑惑に巻き込まれてゆく。第1回講談社NOVEL DAYSリデビュー小説賞受賞作。

「……人間が皆、人工人格だったら良かったのに」

それはきっと、理想郷だ。思考が最短ルートで理想の結果に接続し、そこから決して他の方向にはブレない世界。すべてがスムーズで、摩擦や軋轢の一切ない世界。

人工人格たちがヒトをもてなす仮想リゾートパンドラ。そこは現実そっくりの仮想世界。あまりにも弱く馴れやすいヒトの脳と、無駄とブレのない人工人格。パンドラや人工人格は、SFとしての厳密さに必要以上にとらわれず、揺らぎやすいヒトの心情を描くための装置という印象ではある。ただし、その描写力は本物だと思う。27歳の男のあまりに鬱々とした心情と、出会ってからの思い出が折り重なるように語られる序盤は、かなり引きずられた。「人間らしさ」を真っ向から描いた、真摯な物語だったのではないかと思います。

一肇 『黙視論』 (角川書店)

黙視論

黙視論

  • 作者:一 肇
  • 発売日: 2017/05/31
  • メディア: 単行本

あるとき、不意に話すことをやめてみたら意外といけた。

もちろん、それはもう完全に誰とも話さないというわけではなく、極力不必要なことは話さないで生きていくということであり、高校の授業などで指されれば普通に音読もする。一切何も話さないとなればそれはそれで不自由となるのがこの世の中であり、ことさら日常会話に不必要なストレスをかけるのは私としても本意ではない。けれど、これは言うべきかな、いややめておくべきかなと迷った場合、黙したままでいても世界はまったくもって形を変えないし、むしろ趣深いことも多々あると気がついてしまった次第。

女子高生、幸乃木未尽はある日、学校で赤いバンパーのついたスマートフォンを拾う。「人と話さない」ことを己に課している未尽はその着信を無視していたが、次々と届くショートメッセージをきっかけに、スマホの持ち主、九童環とやり取りすることになる。九童環は自分がテロリストであり、未尽の高校に爆弾を仕掛けたという。爆発の時期は文化祭、起爆装置はスマートフォン。

話すことをせず、「黙視」して想像する。そこには語られない物語が、世界が今も広がり続けている。言葉を語らない高校生、幸乃木未尽は、学校を破壊しようとするテロリスト、九童環を探すことになる。ある意味、究極の一人芝居といえる青春ミステリ小説。台詞回しもどことなく芝居めいたところがある気がする。コミュニケーションのための言葉は語らない、それでいてモノローグではめっちゃ饒舌な未尽の語りは肩のこらないもので、親しみを持てるしすっと引き込まれる。

それぞれに抱える生々しい事情や鬱屈したものを少女の「黙視」という形で語る、不思議で優しい読み口の感じられる小説だったと思う。とても良い作品でした。過去の作品である「少女キネマ」に共通する雰囲気があるので、ぜひあわせてどうぞ。



kanadai.hatenablog.jp

三月みどり 『ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? 3 えっちな子でもいいの?』 (MF文庫J)

まあ色々とわからないことだらけだけど、今回の件でたった一つだけわかったことがある。

どうやら俺の好きな人は変態だったらしい。

ラブコメの神様に邪魔され続けたラブコメ、完結。月宮姉妹の母親登場、そしてついに告白の成功へ。セリフが多めで明らかにまとめに入る印象はあるけど、やりたいことが一貫しているのはわかるし、斜め上に着地したハッピーエンドも含めて印象が好い。お気楽で楽しゅうございました。

野﨑まど 『タイタン』 (講談社)

タイタン

タイタン

  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

『食べることは仕事でしょうか』

コイオスの疑問が口から滑り出た。

「その疑問はこう問い直せる」

私は疑問に疑問を重ねる。

「“生きることは仕事か”」

2205年。標準AI『タイタン』の登場によって、人類は仕事のない生活を送っていた。人が働かなくても食べていける。むしろ人が働かない方が食べていける。そんな時代が続いていたある日、心理学を趣味にする内匠成果のもとに数少ない《就労者》が現れ、《仕事》を依頼する。その《仕事》とは、機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった。

《仕事》とは何なのか。未来の社会を舞台に、もはや仕事をする必要のなくなったヒトと、ヒトに変わってすべての仕事を実行するAIの対話を通じて考える。平易な言葉とわかりやすい例示を多用した対話(カウンセリング)にはかなりおねショタのにおいを感じる。

静かな対話と旅路を中心とした、基本的にはとても真摯で真面目な思索小説なのだと思うのだけど、場面転換がことごとく素っ頓狂で、章が切り替わるたびに予想もしない方向にすっ飛んでいく。すべては作者の掌の上、いちいちひっくり返ってしまった。ちょう楽しかったです。