松村涼哉 『監獄に生きる君たちへ』 (メディアワークス文庫)

――あぁ、この監獄に監視者はいなかったんだ。

誰も自分など監視していない。そして、ここに暮らす住人全員、誰かが監視していると思い込んでいる。だからどれだけ叫ぼうと助けには来ない。

絶望しかなかった。やがてオレは考えることをやめた。

廃屋に監禁された六人の高校生。建物には「私を殺した犯人を暴け」と書かれた手紙が残されていた。差出人の名前は真鶴茜。六人全員を救うために奔走し、七年前、この場所で転落死した児童福祉司の女性だった。

七年前。監獄のような団地にいた六人の小学生と、ひとりの児童福祉司の間にあった出来事を、その周辺の記憶からたどってゆく。メディアワークス文庫からの三作目は、児童福祉の現実をテーマにした人狼ゲーム風犯人探しミステリ。少年犯罪をテーマにした『15歳のテロリスト』、無戸籍児の問題を扱った『僕が僕をやめる日』に引き続き、本を出すごとに小説として洗練されているのは間違いないのだけど、愉快とはいえないこれらのテーマを一貫して取り扱うモチベーションというか情熱というか、そういうものがどこから来ているのだろうか。虐待を受けていた子供たち、自身の生活を犠牲にして救った児童福祉司、現状を理解していないがために間違った方向へと舵を切る地域社会と行政が悪い方向にがっちりかみ合った末に生まれたひとつの悲劇。重苦しく、目を逸らし難い物語であったと思います。



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宮澤伊織 『裏世界ピクニック5 八尺様リバイバル』 (ハヤカワ文庫JA)

「お互いを巻き込むとかどうとか、私たち、そんな段階、とっくに通り過ぎてるんじゃないかな、空魚。私たち、この世で最も親密な関係なんでしょ?」

狂乱のラブホテル女子会から始まった新年。裏世界と日常を変わらず行き来していた空魚と鳥子の仲は大きく進展してゆく。

ポンティアナック、マヨイガ、そして二度目の八尺様。女子大生ふたりのネットロア異世界サバイバル五巻。もうお互いの気持ちを隠そうともしないこの二人、カップルとしてもう完全にできあがってる。気持ちや想いが、細やかだけど自然で読みやすい言葉で語られる。なんというか、すごくリラックスしていて、すっと頭に入ってくる感覚があった。アニメも楽しみにしてます。

逆井卓馬 『豚のレバーは加熱しろ(3回目)』 (電撃文庫)

豚のレバーは加熱しろ(3回目) (電撃文庫)

豚のレバーは加熱しろ(3回目) (電撃文庫)

我々は軽視されてきたからこそ、こうして重要な場面に立ち会っている。覚えておいてくれ。本当の意味で歴史を変えるのは、歴史から見向きもされてこなかった者たちだ

王の弟、ホーティスの居場所を突き止めた豚たち一行は、王朝と解放軍の同盟を強固にしつつ、闇躍の術師を倒すため北方へ向かう。

魔法使いとイェスマの関係を知り、記憶を取り戻したジェスとともに、豚は再び冒険に出る。弱者から奪うことで成り立っている社会システムに、豚と犬が抵抗する。読み返して今さら気づいたのだけど、これは『タクティクスオウガ』なのでは。王国と解放軍の同盟と諍い。王と王の弟の確執。国と王統を守ること。あまりにも軽く扱われる命。それでも、世界は少しずつ良くなっている、という。今回は少し詰め込みすぎな印象もあったけど、ふざけたタイトルからは想像できない、ハードで切ない正統派ファンタジーだと思うのですよ。騙されたと思って読んでみるといいですよ。

ヰ坂暁 『僕は天国に行けない』 (講談社タイガ)

僕は天国に行けない (講談社タイガ)

僕は天国に行けない (講談社タイガ)

  • 作者:ヰ坂 暁
  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 文庫

疎外感。

皆が涙する美しい物語が、嘘っぱちだと俺は知っている。

「死んだらどうなるのかな、人って」。余命数ヶ月の親友、狭山殉は溺れる子供を助けようとして溺死した。葬式帰りの俺の前に現れた少女、奥城灯は、殉の死がトリックを使った自殺だと告げ、動機を一緒に探ることを提案する。

「死んだらすべて終わりなのに、なぜ我々は生きるのでしょうか?」。余命数ヶ月を残した親友は、事故を装い自ら命を絶った。その理由を追うふたりは、殉が連続殺人事件に関与していた可能性を知る。それぞれの「生きる理由」と、天国と呼べる場所を追ってゆく、「祈りと救済のミステリー」。講談社ノベルスや講談社BOXの血筋というか、テーマに比してどこか意地の悪さを感じさせる語りになっている。嫌いではないのだけれど、それは果たして救いなのか? と個人的には思ってしまうな。

鏡征爾 『雪の名前はカレンシリーズ』 (講談社ラノベ文庫)

雪の名前はカレンシリーズ (講談社ラノベ文庫)

雪の名前はカレンシリーズ (講談社ラノベ文庫)

  • 作者:鏡征爾
  • 発売日: 2020/11/30
  • メディア: Kindle版

きみはいつか必ず死ぬ。物語に始まりも終わりもないように、きみの人生にも終わりも始まりもない。きみの人生は最初から始まっていて、最後まで終わっている。きみの瞳に映る世界は最高で最低で残酷で、そして過去はいつだって美しい。

ただそのことだけが哀しい。ただそのことだけが愛おしい。

この両義的な感情だけが、いまは救いだ。

巫女の託宣によると、「冬時間」と呼ばれる異世界から襲来する十三体の転生生物を殲滅した時、分裂した世界は統合されるという。転生生物に対処するため、転生インプラントを埋め込まれ生み出された少女たちを人工少女と呼ぶ。「カオナシ」と呼ばれる僕、四季オリガミの役割は、人工天使・制服少女委員会の転生者、赤朽葉カレンを記録すること。

ふたつに分裂した世界。インプラントを埋め込まれ、侵略者と戦い死ぬことを運命づけられた少女たちの学園。顔のない少年は学園のエースであり死を運命づけられた少女と運命を共にする。過剰なくらい様々なガジェットとマクガフィンに彩られた、出会いと初恋と別れの物語。今になってここまで直球のポスト・エヴァンゲリオン的な新作が読めるとは思わなかった。ファウストと飯野賢治に感謝を捧げるあとがきといい、ひとつの時代にピリオドを打ったような感慨と、良い意味での懐かしさがあった。よかったです。



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