蒼井祐人 『エンド・オブ・アルカディア3』 (電撃文庫)

否、こんな奴が“神”であってなるものか。

だがしかし、この状態の神崎徹を“人間ヒト”と呼ぶには、あまりにも時代の認識が追いつかなすぎる――。

クローン体の病、〈エラー517〉を克服した秋人とフィリアたちのもとへ、正体不明の助けを求める“声”が届く。声の主は、《アルカディア》の、製作者にして秋人たちをここまで導いた《JUNO》だった。救出された《JUNO》は“死を超越した子供たち”の秘密と、《アルカディア》を完全に破壊する方法を語る。

死と複体再生リスポーンを繰り返し、終わらない殺し合いを繰り返す。死んだら終わるという大きなルールチェンジを経て、子供たちが「自分の頭で考え」て出した結論と、戦いの終焉を描く。かなり駆け足気味、かつ書くべきことをめちゃくちゃに詰め込んだ印象を受けた。青臭さを隠さない、ちょっと恥ずかしくなるような語りがテーマにマッチしていて、ひとを選ぶところはありそうだけどとても良いと思う。もうちょっと読みたかったな。お疲れ様でした。

五月雨きょうすけ 『クセつよ異種族で行列ができる結婚相談所 ~看板ネコ娘はカワイイだけじゃ務まらない~』 (電撃文庫)

結婚の革命――――封建的な社会システムの維持のための結婚から、人間の自由意思を尊重し幸福を追求するための結婚への転換。それは世界の構造そのものを変えてしまいかねない大それたことである。

神によって造られた十七のヒト族は、長きにわたる種族間戦争を終え、実験都市ミイスを建造した。そこは、すべてのヒトが平等に暮らすことを目指して造られた社会。田舎から出てきたばかりの猫人族(レオーネ)の少女は、ミイスの結婚相談所〈マリーハウス〉で新入りスタッフとして働くことになる。

「身体的特徴は勿論、文化も価値観も異なる種族を代表する者たちが一同に会している。しかも議論がまとまり、全ての種族が同じ方向を見据えている。この光景こそが私たちが望んでいた世界の形だ。ともに歩んでいこう。十七種族の同胞たちよ」

第29回電撃小説大賞金賞受賞作が描くのは、十七の異なるヒトが共同社会を送る実験都市、とある結婚相談所から始まる「結婚の革命」、そして世界そのものの復興と変革。要は婚活を中心にした『ズートピア』のような小説ではある。

異世界コメディのお約束もいろいろと交えて描くのは、十七種族の間に、また戦前・戦中・戦後の世代間にある価値観のずれや変化。各種族内で使われることわざや格言、軽い気持ちで言った異種族への侮蔑の言葉が想像以上に相手を傷つける様子。そんな、「多様な姿と価値観を持った」ヒトが、「許容と理解」を示すきっかけとなる物語を「結婚」にまつわるドタバタを軸として描く。

「自由とは、長耳族(エルフ)鉱夫族(ドワーフ)が愛し合っても咎められないことだ」という一言がこの作品を端的に表していた。長いタイトルから良い意味で裏切られる、テーマと思想の込められたとてもよい作品でした。

彩月レイ 『勇者症候群』 (電撃文庫)

人間と《勇者》が分かり合うことなどありえない。

《勇者》とは無辜の民を滅ぼすものだからだ。

世界を滅ぼす力、《勇者》。それは、謎の生物「女神」に寄生された夢見る少年少女が変貌した怪物。《勇者》は夢に包まれたまま、眼の前にいるのが人間だと知らぬまま、己の世界を守るために正義を振るう。

第29回電撃小説大賞金賞受賞作。最前線で《勇者》と戦う少年少女たちの勇者殲滅部隊「カローン」の戦いを描く。現代日本に現れた異能者たちの戦いに、転属を命じられた研究者の少女と最前線の兵士たちの価値観の衝突といったベタなところや、少ない予算の取り合いにと、いかにも現代的に過不足なく書いていたと思う。劇団イヌカレーによる《勇者》デザインと、イラストの差し挟み方も完全に「劇団イヌカレーの怪獣図鑑」だった。「王道」と「陳腐」のキワにある物語ではあったけど、悪くなかったと思います。

榛名千紘 『この△ラブコメには幸せになる義務がある。2』 (電撃文庫)

もしかしたら世界で一番、幸せなのかもしれない。誰も不幸ではないのかもしれない。

けれどその幸福に浸っている自分が、ふとした瞬間ひどく卑怯者に思えるのだった。

幼なじみの椿木麗良が大好きな皇凛華、そのふたりを取り持とうと奮闘する男、矢代天馬、そんなふたりに好意を寄せる椿木麗良。そんな三角関係が続いていたある日、麗良が生徒会長選挙への立候補を決める。ふたりをくっつけるチャンスと見た天馬は、凛華を応援演説に推薦する。

生徒会選挙にライバル登場、そしてお互いを思っての行動がお互いを追い詰める。帯に曰く、「ラノベ史上最も幸せな三角関係ラブコメ」の第二巻。それぞれどこか認識がずれつつ、互いが互いを認め合い想いを寄せる、悪役のいない三角関係。ひどく鈍感なように見える天馬も、おそらく自覚的なんだろうな。どういう形になるとしても全員幸せになってほしいな、と優しい気持ちで素直に応援したくなる。とても良いラブコメだと思います。

榛名丼 『レプリカだって、恋をする。』 (電撃文庫)

私は、ベッドで眠ったことがない。

布団を庭の物干し竿に干して、お日さまの光をたくさん浴びせたことはある。夕日が沈む前に、急いで取り入れたことだって。

でも、ベッドに敷き直した白い布団の感触を知らない。

想像するとドキドキする。横になったら、どんなにふわふわするんだろう。

体調の悪い日。日直の日。定期テストの日。愛川素直が学校に行くのが億劫な日に呼び出される、素直のために生きることが使命の分身体(レプリカ)、それが私。素直が七歳のときに突然生まれてから、一緒に生きて成長して十六歳になっていた私は、恋をしてしまった。

名前も姿も借り物の、空っぽだったはずのレプリカの、ある夏の恋。第29回電撃小説大賞受賞の、「とっても純粋で、ちょっぴり不思議な青春ラブストーリー」。ちょっとした所作だとか、海や動物園の情景だとか、感情の揺れ動きだとか、あらゆるテキストがみずみずしくて美しい。「おはよう」の言葉のやわらかさ、腕を引っ張ったときに鳴る関節の音、「自分のプライドを守る術を細かく身につけている」、怪物のように黒い海。ものすごく観察して観察したうえで、大切に言葉にしているのだということがイヤというほど伝わってきた。大賞にふさわしい、本当に純粋で素敵な恋物語だと思います。