東亮太 『妄想少女3 決戦は夏コミ最終日!』 (スニーカー文庫)

「たぶん、魂を込めるんだろうね」
光宏の「萌え」という発言に反応して、美春はそう呟いた。
なるほど、魂か。こちらが萌えることで、絵に魂が宿る、と。
まあ、もっともらしくは聞こえるけど。
「じゃあ、そもそも『萌え』って、何なのかな」

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カリスマイラストサイト,ミラージュ・ネルの管理人,紗衣.基本的にネット上でしか活動してこなかった彼女が,夏コミまで三週間になった今日,三日目に向けて同人誌を出すわよと唐突に言い出す.当然のように手伝うことになった光宏であった.
「萌え」とは何か.イラストに強烈に萌えることで,二次元の女の子を三次元化することができる能力(相変わらず原理は不明)を手がかりに探ってゆくシリーズ第三弾.これまで特に触れてこなかった,イラストが実体化する能力の理屈づけが素晴らしい.左甚五郎や円山応挙を例に挙げながら,曰く,「萌え」とは「愛」そのものであり,己の魂を籠める行為である,と.強いて明かさなくてもいいというか,むしろ明かさないほうがいい部分だと思っていたのだけど,核心をぼやかしつつ,ここまで上手くハッタリかましてくれるなんて! 嬉しくなってしまうではありませんか.
ミラージュ・ネルの元共同管理人だった月代と紗衣の昔のエピソード,仲違いした理由,ちょっとだけよりの戻るラストと,今まで弱かったストーリーも今回はすごくきれいにまとまっていた.オタクをネタに,ユーモアを散りばめながらも,あくまで落ち着いたテキストがすごく物語に効いている.最高でした.