研究室の人間+αで温泉バスツアーに出かけた.
バス一台を借り切って鬼怒川(恐らく)へと進む総勢40名ほどの一行.私は何故か出発前から疲れきっており,前のほうの座席で眠りこけていた.
そこに「ぐしゃ」という間の抜けた音.どうやらバスが自動車と衝突してしまったらしい.ひどい状態の自動車と,無傷の我がバス.人間は全員無傷.
自動車の運転手がバスに乗り込んできた.髪を黄色く染めた男で,手に包丁を持っている.通路のいちばん前に立ち,慰謝料と修理代として6000万円を要求するという.あんた,それじゃバスジャックだよ.そして,まったく何事もなかったかのようにバスを出発させる運転手.車内には緊張感のかけらもない.おいおい.
この車内の様子に犯人(違うのだが)も焦りを覚えたか,何故自分がこんなことをしたか,そして何故大金が必要なのかを乗客を説得するかのように訥々と,また,自分が間違ったことをしているわけではないということを,法律の話を交えながら語り始めた.しかしながら,乗客たちはその話を全然まともに聞いていないようで,私はというとやっぱり疲れきっていたので話を聞かず浅く眠っていた.お互いふてぶてしい奴らである.
ひととおり話し終えてもやっぱり乗客たちの反応は薄い.業を煮やした犯人が言う.
「それではここで,皆さん一人一人から意見を伺いたいと思います.それではまずあなたから.」
私の前の席の乗客が指名された.私は眠っていたため話を全然聞いていない.意見なんか出せないぞさてどうしようかと目をつぶり半分眠ったまま考えていると,犯人は私をとばして後ろの列の人間を指名し始めた.法律を交えた熱い議論を闘わせる犯人と後ろの席の誰か.私はその誰かに「がんばれよ」とエールを送り,何を言っているのかまったくわからない難しい話をBGMにしつつ徐々に深い眠りに落ちていくのであった.