ジョセフ・エルダー編/浅倉久志・他訳 『ラブメイカー』 (ハヤカワ文庫SF)

ラブメイカー (ハヤカワ文庫 SF 408)

ラブメイカー (ハヤカワ文庫 SF 408)

"未来におけるセックス" をテーマにした 10 編の SF アンソロジー.テーマがテーマなだけに下世話なワンアイデア勝負の短編が多くさほど強くは惹かれなかったのだけど,解説で時代背景を読むとこれでも相当に意欲的なチャレンジだったらしく,興味深い.SF 史についても無知な私なのでそれを先に頭に入れて読むべきだったかも知れん.
以下てけとーに感想.シルヴァーバーグ以外は名前さえはじめて聞く作家ばかりで自分の見聞の狭さを知る.

エドワード・ブライアント/風見潤訳 『二・四六五九三』

未来のセックス概論.尺の限られた,断片的な描き方の中にセックスの本質を描こうとした意欲が見える.

ゴードン・エクランド/山田順子訳 『ラブメイカー』

男性型アンドロイドのポルノスターの憂鬱.単に「ポルノスターの憂鬱」として読んでも違和感はなく,SF 要素は味付け程度.

パミラ・サージェント/小尾芙佐訳 『クローン・シスター』

ある科学者から生み出されたクローン兄妹たちの恋愛話.同じ遺伝子を持ったクローン・男とクローン・女の恋愛,というのもちょっと考えると気持ち悪いものがあると思うのだけど,突き詰めれば面白くなりそうな予感.短編だけにそこまで煮詰めていないのが勿体無い.話から受ける生理的なもにょもにょ感は『リヴァース・キス』に似ている,かも.

ロン・グーラート/浅倉久志訳 『ホイッスラー』

男性型自律セックス・マシーンのホイッスラーが大暴れ.テーマはともかくストーリーラインはいい加減じゃね? よく言えばおおらか.でもまあユーモラスなホイッスラーの言動には笑わせてもらったしユーモア SF としては優秀か.ホイッスラーの声は c.v. 若本で脳内再生された.

ロバート・シルヴァーバーグ/川村哲郎訳 『グループ』

セックス体験・体感を「装置」を用いて「グループ」で共有することが当たり前となった世界の価値観と,あるひとりの女性のセックス体験を独占したいという「古い」価値観のぶつかり合い.ディストピア小説の風情が漂っていて少し気が滅入ったけどこの中ではベスト.さすがシルヴァーバーグといったところ,か.

T・N・スコーシア/宇佐川晶子訳 『ナルシズム』

滅亡後の世界に取り残されたただ一組の男女.読みやすい教科書的なショート・ショート.

ジョン・ストーパ/宮脇孝雄訳 『お子様革命』

性的快感を大人たちだけに独占させるのはおかしい.セックスをする権利と技術を子どもたちにも与えよ,という革命譚.「英雄」テディ・ベアの頑張りは,オチ(予想できなかった)まで読むと却って説得力が落ちるような気がしたなぁ.この辺も当時の時代背景が分からないからあまり偉そうなことは言えないかもだけど.

トマス・ブランド/冬川亘訳 『ドン・スローと電気捕女銃』

撃った女を燃え上がらせる(性的な意味で)銃が登場するアホなスラップスティック.いくら 70 年代の作品とはいえ妙に古めかしい,と思ったらバットマンのオマージュなのね.かつての筒井康隆にも通じるものがあり,全集で慣れ親しんだ自分には懐かしくも楽しかった.

バリー・N・マルツバーグ/和田義之助訳 『アップス・アンド・ダウンズ』

人類初の惑星間飛行に挑む宇宙飛行士の性欲処理について.ハードなテーマをハードに描いているけど地味.無重力セックスは遠いなー.(2007.10.9 追記)

ジョージ・ゼブロウスキー/安田均訳 『星のめぐり』

ハードかつ観念的な SF.宇宙(女)のなかへと這入っていく宇宙探査船(男)のモチーフ? 後年にも似たようなモチーフは多用されているよね.正直分かりにくかったけど古臭さもさほど無いのは凄い.