片山恭一 『世界の中心で、愛をさけぶ』 (小学館文庫)

世界の中心で、愛をさけぶ 小学館文庫

世界の中心で、愛をさけぶ 小学館文庫

正月に実家に帰った際,ブックオフで買ってきた MF文庫を茶の間でパラパラめくっていたところ,母親に「お前はちゃんとした本を読まないんかい」と嫌そうな顔で言われた.「ちゃんとした本」の意味はまったく分からないのだけれどこの言わずと知れたベストセラーなら文句あるめぇよ.
感想.先人たちの創りあげた恋愛小説のテンプレから悲劇的なものを選んで,綺麗な部分のみを選別して徹底的にろ過しました,その上澄みを召し上がれ,といった感じ.さながら将軍さまに供された築地のさんまのような.全体に比べるとそこだけ古風な会話文など,トラディショナルな悲恋小説の雰囲気を残してはいるものの,作者の個性やにおい(?)がまったく感じられないのが気になった.自分を徹底的に殺して書いたかのような,ただ味気ないでは片付けられないなんとはなしの気持ち悪さがあった.
あと,この作品で最も有名な「助けてください」のくだり.愛と若さゆえの過ちと捉えるか,視野狭窄に陥ったバカの暴走と捉えるかでこの小説への評価ががらりと変わると思う.私は残念ながら後者でした.
私は上記理由により受け付けなかったのだけど,マスコミが過剰に持ち上げたりこんなふざけたタイトルをつけたりしなければ一定の層に静かに受け入れられるに留まったのだろうなあ.Amazon のヒステリックなカスタマーレビューを斜め読みしながらぼんやり思った.