冲方丁 『スプライトシュピーゲルIV テンペスト』 (富士見ファンタジア文庫)

前日譚「フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離」.即物的で直球的な表現の連発で二人の立場と距離が浮き彫りにされている.鳳と冬真の互いの意識の振れ幅の大きさにはニヤニヤせざるを得ない.浮き足立って落ち着かない二人の心情が全角スラッシュ多用のスピーディな文体に綺麗に乗っていた.汎用性が思った以上に高いこの文体に改めて感心した.即物的極まれりはクライマックス.不謹慎すぎる表現がバカみたいでカッコよすぎる.
その流れを受け継いだ本編テンペスト.『マルドゥック・スクランブル』のカジノを髣髴とさせる"世界統一ゲーム"からはじまって,そのあとはラストまでノンストップ.500 ページをオーバーするまで継続する緊張感に絞められ続けることになる.キャラクターは増えるものの,フォーカスの移り変わりで混乱するようなこともなく,むしろ並行して掘り下げが行われているのが恐ろしい.国家・宗教・資源を巡る駆け引きと証人たちの「夢」,ヒーローたちがいる一方で紙のように死んでいく沢山の人間たち,裏で生き続ける敵役.いかにも B 級で即物的な構図の物語に「夢」を持つ少女たちを放り込み戦わせるという残酷さが今になってようやく理解できた気がする.「キャラクターチックで人間味が薄い」とずっと感じていた三人娘にもいつの間にか普通に感情移入できていた自分がいた.
てことで最高でした.読みながら何度も変な声が出たよ.良かったようおうおう.MPB とのクロスオーバーもここに来て加速し,もうすぐ出る「オイレン」もとても楽しみ.あと 2 巻? で終わってしまうのが勿体無さすぎる.