冲方丁 『オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog』 (スニーカー文庫)

MPB サイドから描かれるもうひとつのシュピーゲル.今回はこれまでにもましてグロテスクで露悪的.新たに登場した二人の特甲猟兵と中国服の集団,そして暗躍する蛍と皇に印象が引っ張られたためかも分からんけど 4 巻に関して言えば即物的 B 級感は「スプライトIV」以上.こういった悪趣味でコミカルな作風は 3 巻までは「スプライト」が担っていた役割だと思っていたのだけど,ここに来て作風もクロスオーバーを果たしつつある? つくづく器用なひとであることよ.
三人娘三様の不器用な純情も十二分に描かれておりよかったのだけど,今回のもう一組の主人公たる陸王と秋水も良かったと思う.生まれた環境の違いによって純情を手放さざるを得なかった,世界の犠牲者の二人.はっきりとは描かれていなかったものの,「スプライト」という世界のもうひとつの一面が存在することによって紙一重にある彼我の危うさが仄めかされていたように思った.いかにもな噛ませ犬キャラだけどそこに留めておくには勿体無い.今後の一層の活躍を望む.なんて私が言うまでもないか.
「スプライトIV」が「世界」を意識させる物語になっていたのに対し,こちらは「個」の獲得の物語だったのかな.序盤で肉体的に成長していた,そしてクライマックスで守るべき国と都市を真に自覚した涼月に象徴されるように.我ながら安直だと思わないでもないが,まあそんな感じ.