機本伸司 『スペースプローブ』 (早川書房)

西暦 2030 年,地球に接近する長周期彗星"邇基"へ向かった無人探査機が謎のメッセージを残して消息を絶った.一方,彗星の予想軌道上にニュートリノを発する物体が存在することに気づいた有人月着陸計画のクルーたちは謎の物体ことミトラ S を捉えるべく秘密裏に行動を開始する.
えーと,宇宙開発をテーマにしたハード SF ? しかし 2030 年という具体的かつすぐそこにある近未来を舞台にしているわりにはあらゆる面でいびつじゃないかい.ロストフューチャーじみたテクノロジー(壁スクリーン)と現代風俗(カラオケと,ある意味メイドロボ)の組み合わせ.最新のコンピュータが送ってきた,データとしての意味を成さない曖昧なメッセージ.高速の物体にぶつかっても痛いだけですむ宇宙空間.その他もろもろの考証にも疑問符が浮かぶ.そもそもこれは命を賭けるような話なのか? 科学の限界と可能性と神秘性を描いた SF という意味では「アブサルティに関する評伝」とテーマは一なのかも知らんけど率直に言って雲泥だよなあ.基礎的な疑問や情熱をぶつけ合う宇宙飛行士たちのディスカッションは学研のひみつシリーズを読んでいるかのような解説調.昨日とは別の種類の懐かしさがあったけど私がこのレーベルに求めていたのはこういうものではないのだけれど,少年少女向け科学啓蒙小説としてはもしかしたらいける,のかな? 保証は出来かねるので自己責任でヨロ.