泉和良 『エレGY』 (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

フリーウェアゲーム作家のジスガルドこと泉和良.かつかつの生活に鬱屈した彼はある日「どうしてもパンツが見たい!」と書いて衝動的にブログにアップする.翌朝,冷静になった彼は日記を削除するが,本当にパンツ画像を送ってきた女子高生がひとりだけいた.彼女の名前はエレGY.第二回講談社BOX新人賞流水大賞優秀賞受賞作.
作中に登場するアンディー・メンテは実在のサークルで作者はそこの運営者.ウェブサイト運営でよく聞く話もちらちらと含まれていて,私小説,じゃないだろうけど実体験も根っこに含んでいるのかな.「僕」とエレGY や友人たち,先生とのやり取りは良くも悪くもオーソドックスな青春小説の風情.悩んで,作って(創って),バカやって,恋する.「フリーウェアゲーム」は「文学」や「絵画」でもそのまま換えは効く.いくぶん不安定でエキセントリックで「可愛い女」に留まっていないエレGY の存在と立ち位置は面白い.
でもネット上のペルソナと自分自身とのギャップに苦しむ主人公にはいまいちピンと来なかった.骨組み自体は昔からある話なんだけどいまいち悩みの深刻さが説得力不足で,自意識過剰からくる一人相撲に見えた.ネットではすごくよく聞く話なのに,実は身近で体験することはほとんどない希な出来事だから? 実際に書いたり創ったりしているひとに訊いてみたいかも.
終盤はかなり良かった.小さくても作って発信した何かを理解してくれるひとがいて,影響を与えて,そこから枝分かれするように新しい何かがまた生まれるという.しかも彼女は自分に恋している.クリエイターの求める理想のファン像のひとつがエレGY なのかな,と想像した.