ブライアン・マギロウェイ/長野きよみ訳 『国境の少女』 (ハヤカワ文庫HM)

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

クリスマスの 4 日前,南北アイルランドを分断する国境地帯で 15 歳の少女,アンジェラ・キャッシェルの下着一枚の死体が発見された.捜査を担当することになった南ことアイルランド共和国警察のベン・デヴリン警部は事件の意外な真相にたどり着くことになる.
北アイルランド出身のマギロウェイの 2007 年に発表されたデビュー作.帯曰く「愛、死、分断、哀しみを描くボーダーランドノワール」.足を使って情報を集めやがて真相へとたどり着く,刑事ものらしい刑事もの.暴力,ドラッグ,セックスといかにもノワールらしい題材を下敷きに置きながらも前面には出さず,静かに抑えて描いている風は私の好み.あまり馴染みのないアイルランドという土地の生活や風景も興味深く読んだ.帯やカバーからアイルランドの政治問題なんかを押し出しているのかと思っていたのだけど,物語の背景のひとつという位置に留めている.日本人が京都が舞台の殺人事件を書いたからといって歴史や文化に必ずしも触れるとは限らない,てのと同じことだね.私がアイルランドの社会的背景を断片的かつ大雑把にしか知らないので微妙なニュアンスを汲めなかった,てのはあると思うけど,ドラマの重心はそこにはなく少し肩透かしを食らった感じ.まあ悪いのは帯とカバーであって作品には罪はないです.