森見登美彦 『太陽の塔』 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

「ダメだ。三次元だぜ。立体的すぎる。生きてる。しかも動いてる」
「あたりまえだ。落ち着け。この先一生、二次元世界で生きるつもりか」

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ある休学中の京大生の華のない生活の徒然.日本ファンタジーノベル大賞受賞の森見登美彦デビュー作.私にとっては青春アンソロジーの短編を読んで以来の森見さん.親しみやすいインテリゲンチャを絵にしたような,クドくて味のある文体にそれぞれの人物がマッチして渾然一体と物語の基盤を形成.つらつらと日常を並べただけの一見まとまりがない日常の断片に自然に馴染みすぎていた.これでは面白くならないわけがない.いくつものエピソードのなかでも,「理路整然」とした手紙を父親から受け取って途方に暮れる"私"の心情には同情を禁じ得ない.私も留年決定の前後には色々あったからさ.
冬の京都の情景も,強すぎない自己主張で話にうまく華を添えていたと思う.京都に縁のあるひとたちの感想を読んだ限り,土地勘があればまた違った味わいがあるんだろうねえ.誰かさんも言ってたけどストリートビューで舞台探訪マップを作る親切なひとはどこかにいないものかい.