森青花 『BH85 青い惑星、緑の生命』 (徳間デュアル文庫)

ある製薬会社の若手研究員が自分の理論で研究を重ね開発した養毛剤 "BH85".ヒトでの効果を実証するため勝手に商品に紛れ込ませて出荷した一本の BH85 はこれまでにない効果を発揮したが.
1999 年の第 11 回日本ファンタジーノベル大賞・優秀賞受賞作『BH85』の加筆修正版.これはムチャクチャ面白かった.植物を利用した育毛剤というとっかかりのアイデア星新一ショートショートがもと? 大阪の小さな会社の会議室からはじまる話がいつの間にか地球規模の生命の変革,個体の在り方まであれよあれよと膨らんでいく.時間とともにすべての生物がひとつになってゆく過程にも,残されたひとびとの悲壮感はどこか薄く,とぼけた味を残しているのが面白い.一方で BH85 から生まれた新生命の存在や意識の描き方は衒学的ではないのにどこか哲学的.静かに終り,静かに始まるのにとぼけた空気を一貫したラストもすごく良かった.長嶋有の推薦文にあるようにこれもポスト・エヴァの一冊になるんだろうけど,正面から受けるのではなく上手く力を逸らして自分のものにしてしまった.みたいな感じ.超おすすめします.

「わたしは時に、ネオネモの寂しさを思います。誰かに出会った瞬間、誰かはわたしになってしまう。それは果てしなく寂しいことかもしれません」

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