森青花 『さよなら』 (角川書店)

さよなら

さよなら

95 歳,木造アパートで誰にも知られず静かに死んだ佐藤嘉兵衛.死んだはずの彼の「こころ」は何故かこの世に留まり続け,さまざまなひとたちと出会い,さまざまな死を見つめることになる.
これはかなりの怪作かも.死体を維持し続ければ現世に留まることができ,姿は見えないものの人間との会話は自由な「こころ」たち.有り体に言うなら幽霊なんだろうけど,執着とか怨念といったものは持ち合わせておらず,むしろ人間よりも飄々としたものとして描いている.そういった必死な気持ちは生きている人間だけのもの,ってことなのかもしれないけど.
物語は多くの死を扱いながら悲壮感を表に出さず,一貫して淡々と飄々と描いていて,なんとも言えない独特の味がある.死ぬことで社会のしがらみから解放され,一歩離れた位置に立って残された者とコミュニケーションをとる「こころ」と,最初は驚きながら,すぐに受け入れる遺族たちの関係.かなり不気味な印象も受ける.読後感を言葉にするのが難しい.
『BH85 青い惑星、緑の生命』が面白すぎたので急いで購入した一冊.「BH85」を読むまで寡聞にして知らない作家だったのですがこちらもすんげーよかったです.個人名義の単行本は二冊+加筆修正版一冊だけなのかな? 出来れば他の作品もまとめて読みたいところ.