小川一水 『フリーランチの時代』 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

小川一水の第二短編集.舞台を未来に置いて「生命」や「社会」のあり方を描く.

フリーランチの時代

火星上でのファーストコンタクトとその後の人類の変容.えらく気持ち悪いことをあっけらかんと描いていて,よくもわるくもぽかーん,と.

Live me Me.

事故によって大脳以外のすべての身体機能を失った女性のその後の人生.手塚治虫のような古き SF の香りを漂わせながら,アイデンティティの在処を描く.古典的なテーマを冷徹に,それでも「生きる」ことを決める「私」の,力強くもふてぶてしい物語.自分探しなんかクソ食らえ,だ.短いながら描ききっており,粒ぞろいのこの短編集でもベストでした.

Slowlife in Starship

宇宙開発も一段落した時代,小惑星帯に単座船で住まう引きこもりたちのスローライフ.日常の場となった宇宙にかすかにほの見えるラストのフロンティア精神は,スローライフ時代の余裕のなせる壮大な計画によって受け継がれる.偽善的っちゃ偽善的だけど,これも宇宙での生活のひとつの形.

千歳の坂も

不老不死を手にし,自然死を失った先進国の死生観とそれがもたらす社会のひずみについて.死ぬことを許されない人々と,やがて変化する国際社会の意識がすごく面白い.これは出来れば長編で読んでみたい一編.

アルワラの潮の音

南の小さな島国を舞台にした『時砂の王』のスピンオフ短編.ラストはいかにも作者らしい……けどこの話そのものを否定しかねない蛇足のような気もする.