打海文三 『裸者と裸者 下 邪悪な許しがたい異端の』 (角川文庫)

両親の離婚後,母親の家で暮らしていた月田桜子と椿子の双子の姉妹.十四歳の夏に東から侵攻してきた武装勢力に家族を殺された姉妹はたまたま出会った脱走兵の佐々木海人に命を救われる.内乱が勃発した日本を舞台に戦争を動かすシステムとそれにあがく人々,少年少女の戦争への関わりを描く.
戦争に付きものの政治・宗教・カネはもちろん話に絡むものの扱いはむしろ軽い.右に偏った男根主義,女性だけのマフィア,孤児だけの部隊.描いているのは間違いなく戦争なのに,個々人の社会的ポジションや所属するコミュニティが生でぶつかり合う,比喩としての「戦争」を描いているかのような錯覚を覚える.逆代理戦争,といって伝えられる自信はないが,なんかそんな.少年のような言葉を遣い,作中ではほぼ「姉妹」と称され区別されない主人公,月田姉妹もこの現実感と遊離感(?)の同居した戦争を掻き回してくれる.不思議で不安で,面白かったです.