いしいしんじ 『白の鳥と黒の鳥』 (角川文庫)

白の鳥と黒の鳥 (角川文庫)

白の鳥と黒の鳥 (角川文庫)

短編というには短く,ショートショートと呼ぶには少し長い 19 の掌編集.現実から非現実に一歩踏み出してアイデンティティの根拠の薄さ(?)を不気味に描きだした「赤と青の双子」「薄桃色の猫たち」.現実感の薄い話が続くかと思いきや,「薄い金髪のジェーン」「紫の化粧」「ボウリングピンの立つ所」では短いページから乾いた生活感がどっしりとのしかかるよう.また一方,くだんねー冗談を大真面目(??)に描いた「わたしの千食一夜─第百二十三回─ひらめ、アオヤギ、こぎゅんぱの巻」や,『色眼鏡の狂想曲』を軽めのユーモアで仕立てたような「オールド・ブラック・フォスター」にはくすっとさせられた.童話のような奇妙でブラックな話から,生活感のあるユーモアをシニカルに,時にウェットに仕立て上げた掌編までストーリーの幅はかなり広い.はじめて読んだいしいしんじでしたが面白かったです.